都知事選は、副産物として大変なものに光を当ててしまった。
どうやら、その発端は、元都知事の猪瀬氏にあるらしいが、国民には勿論のこと、都民にだって知られていなかった東京都の腐敗構造が、すっかり明るみに出されてしまった。その元凶が、都政のドンといわれる内田氏だ。
だが私は、世間の沸騰した空気を横に見ながら、内田氏という個人の話でなく、「長期政権は、腐敗する。」という、言い古された言葉の好例として捉えている。今回の騒ぎが、辞職とか、逮捕とか、内田氏個人の問題として片付けられることの方に危惧を覚える。特定の個人が、長期にわたって権力の座にあると、必ずそこに汚れた水が溜まり、手に負えない腐敗が発生する。
内田氏が去っても、体制は残るのであり、次の者が座れば同じことが繰り返される。東京だけの話でなく、地方議会のどこにでも発生しうる問題であることを、有権者は知らなくてならない。自民党ばかりでなく、民進党、共産党でも、地方議会における腐敗構造はきっと同じだ。たまたま表に出なかったからと、他人事のように不正を暴きたて、政争の具にするような議員や支援者たちの言葉は、眉に唾して聞かなくてならない。彼らの正義ぶった、一方的糾弾は、国民をたぶらかす自己弁護と警戒しながら聞く方が正しい。
内田氏は昭和14年生まれの77才で、千代田区の区議から出発し、東京都議会議長になった人物だ。そして氏は、同時に自民党東京都連の幹事長を務めている。言うまでもなく都連の会長は、今回散々叩かれている石原伸晃氏だ。
猪瀬氏の説明を聞くまで、都連の幹事長がこんなに大きな力を持つ職位だと、ついぞ知らなかったし、多くの国民もそうだったと思う。東京都選出の国会議員は、都連幹事長の承諾がなければ党の推薦が受けられないというのだから、内田氏は、都を選挙区とする国会議員に対して、党本部の幹事長より力を持つということになる。
ネットで調べてみたら、都を選挙区とする自民党の国会議員は、衆議院で28名、参議院で21名、合計49名にのぼる。この中から都連の役職議員が選ばれる。何名いるのか知らないが、今回の騒動で辞任を表明したという議員が、石原伸晃、下村博文、平沢勝栄、萩生田光一といった、錚々たるメンバーだ。
規定によれば幹事長の任期は、2期8年だというのに、内田氏は通算14年勤めている。しかも都議会選挙で落選し、議員の資格を失っていた4年間も、幹事長の任にあったというのだから驚く。なぜこのような理不尽な人事がまかり通るのか、国会議員が綺羅星のように顔を揃えていながら、黙認してきたのか。ここに、都議会の闇が横たわっている。
氏は東光電気という会社の監査役をしており、この会社が東京五輪関係の工事で、大手ゼネコンと組んでどのように甘い汁を吸ったか。ネットの情報なので真偽は確認していないが、オリンピック委員会が東京で計画した3件の工事のうち、2件を受注しているという。
その一件が、バレーボールの会場建設(360億円)、もう一件は水泳会場建設(469億円)という巨額なものだ。何という法律だったのか忘れたが、議員は会社の役員をしてはならないらしく、この点で内田氏は公然と違法行為をしている。加えて職権を利用し、自分の会社への利益誘導だ。これについて、内田氏は否定するのだろうが、汚れた匂いを嗅いでしまうのが、第三者としての常識的な受け取り方だろう。
ここまで知ると、東京都議会と都連が、オリンピック費用の見直しをすると公約に掲げた小池氏を、排除したがった理由が分かってくる。
都職員の内部告発によると、内田氏は「都政のドン」と呼ばれ、その力は都知事を凌ぎ、「実務は幹事長が取り仕切り、都知事は飾りです。」ということらしい。何時から内田氏がそんな力をつけていったのか、資料はもちろん無いので、都議会議員としての経歴から推察するしかないが、どうやら、青島氏の頃からでないかと思われる。
元気な公約を掲げていたが、実際にはたいした実績も残せず、都民の期待を裏切り、無能の烙印を押された青島氏のことが、今更のように思い出される。次の都知事が石原氏で、その次が猪瀬氏だ。剛毅に都政をしていたと思っていたが、石原氏でさえ、内田氏への気配りと配慮を忘れなかったらしい。
都の排ガス規制や、売上税の導入、あるいは尖閣諸島の購入など、石原氏にしかできない政策を実施したが、それだって、内田氏の内諾を取りつけた上でのものだったという。あの石原氏でさえそうだったとしたら、他の自民党の議員が何もできなくて当たり前という気がしてきた。
どうしてこんなに、内田氏を強大なものにしてしまったのか。一つには、幹事長が自由にできる大金が、議員に満遍なく行き渡っていたという説もあるし、氏がヤクザ組織と親密につながり、暴力を背後にした脅しが周囲を萎縮させたという説もある。
どれが本当なのか、私は知らないが、小池氏の覚悟しだいで明らかになっていく。あるいは、自民党の中心にまで食い込んでいる氏を、これ以上追い詰めたら、収集のつかない混乱になると、小池氏が誰かと折衝し、政治決断でうやむやにするのかもしれない。
私は政治に純潔さを求めないし、清潔一本槍で政治がやれないことも知っている。官邸と小池氏が、どこかで折り合いをつけても、そんなものだろうと納得もする。
金にまみれない清潔な政治は、この世の理想で、大切にすべきものだが、国の経営にはどうしたって現実的な思考がいる。金権腐敗は世の常、というより、人間社会の現実だ。もっとひどい腐敗が、隣国にあるし、同盟国にもある。清廉潔白な政治家を求めすぎると、国際社会で生きていけない日本になってしまう。賢明な国民なら、こうした現実の矛盾にも、目を向けなくてならない。
山川の
清きに魚も住みかねて
昔の田沼 今ぞ恋しき
江戸時代の狂歌にあるとおり、政(まつりごと)は、綺麗ごとだけでやれない。
私が政治家を判断する基準は、いつだって同じだ。「自分の国を愛せない政治家は、日本から消えていくべし。」ということだ。愛国心からなされることは、結果で汚れることがあろうと目をつむって良い場合がある・・・・。愛国心さえ一本通していれば、多少の汚れが何であろう。だから私は、今回の自民党と、都連の決定が許せなかった。
外国人に参政権を与えたいとする増田氏を、よりにもよって親韓舛添氏の後任に、どうして選んだのか。ドン内田氏の会社に建設工事を受注させ、都連の自民党議員が利益を共有したいがため、言いなりになる増田氏を指名したという心根の卑しさが許せない。自分の利益のため、国益をないがしろにした自民党議員が許せないのだ。
心正しい多くの人々に、私の意見は受け入れられないだろうと思うが、愛国心の欠けたこうした自民党議員を追い詰めるためなら、いくらでも小池氏を応援したい。
そして先々の話になるのだが、応援しながらも、次なる腐敗のドンに小池氏がならないよう、警戒の目も忘れないようにしたい。