ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

平泉渉氏の最後の言葉

2015-11-05 17:53:31 | 徒然の記

 57回にわたる、平泉氏の動画『世界のダイナミズム』を、すべて見た。

 最後の収録は、平成25年の5月だった。氏が亡くなられたのが、今年の7月だから、死の直前まで明日の日本を心配し、語り続けられたということだ。その気持ちを思うと、自然と、感謝の念がわいてくる。

 最後の動画のゲストは、政治評論家の宮家邦彦氏と、筑波大教授遠藤誉氏だった。
ゲストは毎回変わり、元中国大使の谷野氏とか、元中央大教授の田中努氏とか、それなりの人物だったのだろうが、率直に語る平泉氏に比べ、ゲストの各氏は、隔靴掻痒のまどろこしさだった。

 本気で日本を考えている人間と、知識を蓄えているだけの専門家の違いなのか、揚げ足を取られないための抽象論に、失望させられた。

 最初の頃の平泉氏は、中国を賞賛する意見が多かったため、単なる親中派かと落胆したが、そうでなかった。氏はいわゆる現実主義者で、そのままの中国を受け入れた上で、島国の日本は、どうすれば良いのかと思考する人だった。飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町と、日本は中国文化を吸収することで、国を成長・発展させた。何もかも、中国のおかげと言って過言でないと、氏は述べる。

 「そして平成の今、中国は、アメリカと肩を並べる国となりつつあり、」「かってのソ連より、桁違いの大国となりました。」「日本は経済的に、中国に首根っこを抑えられ、韓国も、アセアンもしかりで、」「やがて欧州も、アメリカもそうなるのでしょう。」

 オバマ大統領が、習近平に遠慮し、イギリスの首相は、中国の財力の前に屈服し、ドイツは、中国市場の魅力の前に膝をかがめている。財も軍事力もないアセアン諸国は、中国が怖くて、表立って抗議すらできない。

 保守言論人の中には、即刻中国と断交すべし、経済関係も切ってしまえと、元気の良い主張をする人物もいるが、それを即座に実行したら、日本経済は大きなダメージを受ける。マスコミの報道は、膨張する中国を毎日のように伝えており、私は、平泉氏の意見に賛同する。

 「第一次世界大戦の頃まで、国際社会と言えば、イギリス、フランス、ドイツのことでした。」「第二次世界大戦が終わると、ソ連が突然大国として浮上し、」「米、英、独、仏、ソのことが、国際社会と言われるようになりました。」「そしてソ連が崩壊し、冷戦が終わった今、今度は、」「世界の真ん中に、突然中国が出現したのです」と、これが氏の現状認識である。

 「毛沢東や周恩来、あるいは小平の時代、に」、中国、は積極的に日本との友好を求め、国を挙げての熱烈歓迎でしたよ。」「ところが突然に、友好の中国が、反日国家となった。」「いったい過去30年間の、あの友好関係は、何だったのですか。」温厚な氏が、珍しく語気を強くした。

 「中国は、こんないい加減な国なのか。指導者次第で変わるのか。」「国際社会に、こんな国はありませんから、」「中国の不気味さを、これで国民が知りましたね。」「中国は、一億人の日本人の魂を弄んだのです。」「日本からでなく、相手から仕掛けられたのですから、国民は中国を許さないだろうし、恨みが残りますね。」

 しかしゲストの遠藤氏は、中国の擁護をした。

 「中国の意図は、日本攻撃というより、アメリカへの意思表示なのです。」「習近平氏が、中華民族の偉大な復興をするのだと、演説しました。」「アヘン戦争以来の屈辱を、覆すのだという意思表示なのです。」「尖閣への領海侵入は、南京事件と同じ日の、同じ時刻に行われました。」「日本では報道されませんでしたが、中国ではマスコミが伝えていました。」

 「1992年に、中国は領海法をつくりました。」「つまり、ソ連の崩壊と同時に、中国は、領土問題に本気を出し始めたのです。」「小平だって、力がつくまでは隠れていろ、力がつけば外へ出ろと、国内では言っていました。」

 さすが朝日新聞社から、著作を何冊も出している遠藤氏は、平泉氏に賛意を示さなかった。中国の内情に詳しいと言いたいのだろうが、だから中国の、日本への非礼や背信が、許せるのかと聞き返したくなった。
 
 「1966年から、1976年にかけての10年間に、文化大革命がありましたね。」「子が親を殺し、親が子を殺し、近隣に住む人間を密告し、」「酷い殺し合いをさせ、近隣社会を崩壊させました。」「先生を弾劾し、暴力を振るい、国民の中の倫理観も、モラルも壊させました。」

 「あれ以来中国は、人間の社会でなく、動物の社会になったのではないでしょうか。」「毛沢東が国内でやったことは、日本の軍国主義どころではありません。」「それなのに、誰も毛沢東批判ができない。これが中国の宿痾であり、深い傷でしょう。」

 老いた平泉氏は、時々言葉が不明瞭になったが、語っている内容は、年齢を感じさせなかった。
「中国には、法の前の平等という概念が、ありませんね。」「人間関係は、武力で決まるという、危険な考え方を持っています。」「大国である中国と、小国という思想です。」「だから中国は、自国と対等な外国というものが、認められない。」「力の論理しかなく、物事を縦系列でしか見られない、気の毒な国です。」

 対談が始まった頃の氏は、穏やかに中国を語り、中国の友人や政治家たちに、好意を寄せていたのに、尖閣問題以降の動画では厳しい意見に変わった。

 「中国が日本を敵視してきたのは、日露戦争以来のことです。」「天安門以降、突然攻撃的になったというのでなく、これが本来の中国だったのです。」「日中友好の30年間は、中ソ対立の間に咲いたあだ花だったのです。」「日本と中国の対立は、今や世界中が注目しています。」「固唾を飲んで、見守っているといっても、いいでしょう。」

 「国連はやがて、中国のため、無力なものになります。」「安保理事国の一員として、拒否権を発動すれば、世界の問題は、何も動かせ無くなります。」「日本が何かしようとしても、敵国条項が邪魔をしますしね。」「本来中国は、戦勝国でありませんが、法的には有効ですから、誰も反対できません。」
 
 戦争放棄の憲法と同様、国際社会では、建前の虚構が大手を振るい、闊歩している。
先日中国で行われた戦勝記念パレードが、その最たるものだ。そのおりの演説でも、英国訪問時の演説でも、習近平は日本と戦って勝利した中国と大見得を切った。

 日本と戦ったのは、今は台湾にある蒋介石の国民党軍であり、当時の共産党は、戦場を逃げ回り、ゲリラ戦しかできなかった。世界の政治家の誰もが知っていながら、誰も反論せず、中国の大ボラを黙認している。「力は正義なり」、「権力は銃口から生まれる」と、言った毛沢東だが、残念ながら世界は今も、それを黙認している。

 かって世界の列強は、武力で国際社会を動かして来たし、戦前の日本も、同じ行動をしたのだから、一方的に現在の中国を、非難する気はない。

 しかし日本の国内で、中国を賞賛し続け、日本を貶めるお花畑の国民には、平泉氏の警告に耳を傾けてもらいたいものだ。己の生の尽きる日を感じつつ、それでも語らずにおれなかった憂国の心情を汲み取ってもらいたい。動画にいた氏は既に亡く、故人となられた事実を思えば、「大切なご先祖様の遺言」として、聞かずにおれないものがあるでないか。

 「憲法と安保の組み合わせで見たら、日本の実態は、アメリカの保護国です。」「おそらくこれは、国際社会の常識ですが、日本ではそうなっていません。」「日本は戦前、欧米については研究しても、中国は軽視してきました。」

 「本来なら、中国については、日本に任せろというくらいの、気概を持つべきなのです。」「敗戦後の日本は、国際社会から隠居し、アメリカに頼ってきました。」「独立への対応も、その体制も、準備せず、」「第一、国民の危機意識からして、無くなっています。」

 「日本は、大国である米中のはざまに位置し、大国の動きで存亡が決まるのです。」「他の国々と連合を組まなくては、生きていけないのです。」「日本はグローバル化しないと、中国とは対抗できません。」

 「本来の日本は、世界の代表として、中国と対抗できる国のはずなのですから、」「引きこもっていては、ダメなのです。」「そのためには、意思表示のツールとしての英語が、駆使できなくてはいけません。」

 安部総理の言う「グローバル化」が何を指しているのか、私にはいまひとつ分からないが、氏の言われる意味を含むのなら、反対どころか大いに賛成だ。

 ついこの間、沖縄の翁長知事が、国連で演説した。基地問題に絡め、政府の横暴を訴え、沖縄住民は人権を抑圧されていると、中国に負けない大嘘をついた。

 この時沖縄の若い女性が、同じ日に、国連で知事への反対意見を述べた。我那覇さんという名前でしたが、彼女の演説を聞いて驚いた。彼女は日本語でなく、英語で堂々と、自分の意見を述べたのだ。

 「沖縄住民は、人権の抑圧はされていません。」「住民は先住民などでなく、日本人です。」「知事のプロパガンダを信じてはなりません。」

 ・・そういう内容だったが、若くても素晴らしい人物がいると、感動した。それだけに私は、ツールとしての英語を、駆使できるようにすべしという、平泉氏の意見に心を動かされる。

 氏のご冥福を改めて祈り、心から哀悼の意を表し、この「ミミズの戯言」をご霊前に捧げたい。


 
 

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする