モンパルナスのキキを描いた作品は二点出ているが「赤いセーターと青いスカーフをまとったモンパルナスのキキ」1925より、「赤いワンピースを着たモンパルナスのキキ」1933のほうが断然よい。
頬もふっくらしているし、生気が感じられ、かわいらしい。
しかしこの人の描く人物像はなぜ型にはまったような作品ばかりなのか。
カタログによると「キスリングが描く人物画は、表情の生気に乏しいモデルを、色彩とマチエールの操作によって生彩あふれる絵画に仕上げるというねじれたプロセスで成立しておりー」ということかもしれない。
そう、キスリング、その回顧展を横浜そごうに観に行く。
東京なら府中に回ってくるのだが、チケットが入ったので横浜へと。
全展示数は60点あまりで、大回顧展と呼べるほどのものではない。
音声ガイドもビデオ上映もなし。
しかしキスリングの暗中模索がよく伝わってくる展示だ。
初期のこの人は明らかにセザンヌの静物画を念頭に置いている、誰が見ても明らかだ。
それからキュビズムの影響を受けたり、プロヴァンスではルソー的素朴さにも回帰している。
そして1910年代末には古典期のオランダ絵画をスタイルに取り入れたようだ、一連の花の絵を観るとよくわかる。
それにしても展示55の自画像と、死去の年に描かれた「ガリ神父」のどっしりしたいかめしさには驚かされる。
もっと再評価されていい人物だ。