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大いなる命はめぐるー奥田元宋によせて

2005-09-07 23:35:15 | アート・文化
京都銀閣寺の障壁画を手がけたのだから名のある画家なのだろう、僕は知らなかった。
「元宋の赤」というらしい、その道では有名な画家なのだろう、奥田元宋という画家その没後初めての回顧展を日本橋高島屋に見に行く。
なんでも戦争中の疎開で美しい日本の山河に目覚めたということで、日本の景色をせっせと描いたのだ。
初期のこの人は赤とは無縁だ、「花開く南房」とか「尾瀬」とかのどかな景色をむしろ青が印象的に描く。
転機となったのは「秋嶽紅樹」という作品だ、昇仙狭をスケッチしていたとき突風が吹いてきたのを描いたのだ。
いまは練馬区立美術館所蔵だ、これが「元宋の赤」の出発点となる。昭和五十年の作品だ。
それから奥入瀬とかいろいろ展示されるが、「炎王図」というのがある。この人に仏画は珍しいという。
不動明王を描いたものだが燃え上がるような赤がこの人の内なる情熱を示す。
「塊」というのが横に展示されていたがこれまた燃える炎のような山を描く。
この人は「半心半眼」という言葉を使う、対象をそのままでなく心で捕らえて描くという意味だ、それがよく伝わってくる。
勿論赤い作品ばかりではない「春耀」という作品では大画面に桜が白い花を咲かせている。
総じてお寺の障壁画などやった人だ、作品はどれもものすごく大きい。その迫力たるや尋常ではない。
昭和62年に高島屋美術部創設八十年の事業でこの人の展覧会「幽玄讃歌」というのが開かれ、そのために新作をたくさん描いたようで、それがかなり展示されている。
展示総数は少ないが一つ一つが大画面で圧倒されるので物足りなさはまったくない。
しかしながら面白いことは後期になるとこの人の視点はどんどん険しい山の中へすいよせられていくのだ。
立山連峰は剣岳に取材したり、「新雪一の倉」も山深くだし、中国山地は積雪した大山を望むのもみな山深くに視点がある。
この人は大いなる自然に抱かれていたのだろう、そして到達した境地が亡くなる前の「輪廻の峪」だ。
それは自然そのものが循環しているともいえるし、仏教思想に詳しいこの画家にとってすべての命の輪廻かもしれない。
この展覧会では奥さんの人形の展示もあった。
この画家がなくなったのは満月の夜でまるで月に吸い寄せられるようだと奥さんは語る。
そういえばこの画家の絵には月も数多く登場する。
この画家が月に何を観ていたのかは定かではないが、大いなる命、生きとし生けるものを支える大いなる命の予感があったように思える、人はどこかで超越という次元に出会うと僕には思える。
美を道徳と関係付けた哲学者カントすら、美はその限界において「崇高」という異質なものに接しているから美足りうると語ったのだった。
それはともかく、大画面のこの展覧会、横浜、大阪、名古屋と巡回する、ぜひ観てほしいと思う。