田舎に住んでる映画ヲタク

「映画大好き」の女性です。一人で見ることも多いけれど、たくさんの映画ファンと意見交換できればいいなぁと思っています。

アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発(Experimenter)

2017年03月27日 17時58分30秒 | 日記

 ナチスドイツの最重要人物アドルフ・アイヒマンの裁判が始まった年に、実際に行われた「アイヒマン実験」の全貌を描く実録ドラマ。1961年、社会心理学者スタンレー・ミルグラムは、「なぜ、どのようにホロコーストが起きたのか」「人間はなぜ権威へ服従してしまうのか」を実証するため、電気ショックを用いた実験を行った。「アイヒマン実験」と呼ばれたその実験は「一定の条件下では、誰であろうと残虐行為に手を染めるのでは」との疑念を実証し、社会全体に大きな影響を与えることとなる。ミルグラム博士役を「マグニフィセント・セブン」「ブラック・スキャンダル」のピーター・サースガードが演じ、ウィノナ・ライダー、ジョン・レグイザモ、アントン・イェルチンらが脇を固める。監督は「ハムレット」「アナーキー」のマイケル・アルメレイダ。(映画.comより)

 

 

 

 アイヒマンに関しては、いろんな映画を見ました。ドキュメンタリー調の「スペシャリスト」に始まって、「ハンナ・アーレント」や最近のマーティン・フリーマンの「アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち」など、結構見たような気がします。ハンナの「悪の凡庸」も私は同意します。上からの命令で、やらなければ罰せられるのであれば、良心の入り込む隙間はありません。ましてやナチスは厳然たるヒエラルキーが存在した組織。やむを得なかったと、私も思います。

ということで、今回のミルグラム博士も、「誰もがアイヒマンになり得る」という実験を行い、それを実証していきます。まず、実験に参加してくれる人を報酬付きで募り、二人ずつ実験を行います。くじ引きにより、片方が「先生役」つまり生徒役に質問をし、もう片方は生徒役として質問に答えます。別々の部屋に入れられ、最初は簡単な質問から始まり、間違うと(先生が生徒に)軽い電気ショックを与えることを了承して貰います。しかし、間違いが重なると、だんだん電圧を上げてゆくのです。それにより、生徒は「あ~」と悲鳴をあげたりするのですが、途中でやめることは許されません。最初の電圧がどれくらい痛いかは、最初に先生役の人にも経験して貰います。生徒役の人は体調に問題はないけれど、心臓病を持っているという前提です。

こういうことが、実際に行われていたことは知りませんでした。ずいぶん前にドイツ映画「エス」などで、「元は差がない人たちを”看守”と”囚人”に分けて演技させると、実際に役割分担が始まる」という実験は見たことがあります。学校の先生が、生徒を対象に同じような実験をさせてみた、という映画も聞いたことがあるので、多分「人は影響されやすい」という事実は広く知られたものなのでしょうね。ただ、今回の実験を映画で見ているぶんには、被験者が置かれている状況がアイヒマンとはかなり違うような印象を受けます。私は心理学を勉強していないので、間違っているかもしれませんが、今回は「危険なことが少ないと思われる現代」で、「お金を貰って」「実験に参加している」のだから、ナチスのようなことはあり得ない、というのが大前提だろうし、途中で棄権したら報酬を貰えないかもしれない。当然そんな心理も働くと思うのです。もちろん、ナチスに雇われている人たちも報酬も貰っていただろうから、そこは同じかもしれない。でも、「逆らえば殺される」って事は、今回の被験者たちは考えないし、これを同列に論じることはできるのかな、というのが正直なところ。もっとも、「殺されることは絶対ないのに、やめなかった」ということは、もっと大きな現象なのかもしれないけれど。

ともかく、報酬を貰っているとはいえ、苦しんでいるとわかっている相手に対して、「電流を流す」という措置をやめなかった人がほとんどだった、ということ。誰もが「やめましょうよ」とは言うのですが、「いや、続けて下さい」「途中でやめることはできません」と言われてその言葉に従った、ということです。先ほどから書いているように、これを持ってしてアイヒマンと同列に論じれるのかどうかは疑問だと思うのですが、しかし「もし自分が」と顧みれば、「だめだ!」と強く言い放ちその場を立ち去る、ということができたかどうかは自信ありません。つい、やったかもしれません。外から見るから「あかんよな」と思えるのであって、テレビのクイズ番組を見ているだけならすらすら答えられるのと同じだと思うのです。

しかしながら、ミルグラム博士は、ありとあらゆる実験を繰り返します。何もないところを数人の人が見上げていると、道行く人たちは皆同じように上を見始める、とか。今となっては、どこかでみたようなバラエティーっぽい試みも、当時は斬新だったのでしょうね。おもしろい。最初にこれだけのことを思いつくのが素晴らしい。

結論としては、博士の才能には舌を巻きますが、その実験の倫理性は私もグレーゾーンだと思います。でも、確たる反論はできないし、自分も多分大多数の人たちと同じ結果になったと思います。そう思うと、怖いまぁ、って感じます。人間の心理って、実は一番恐ろしいのかも。

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