「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督が自身初の3D映画として、ラルフ・ラーセンの冒険小説「T・S・スピヴェット君 傑作集」(早川書房刊)を映画化。気持ちがバラバラになってしまった家族を元に戻そうと奮闘する、天才少年の葛藤や成長を描いた。米モンタナに暮らす10歳の少年スピヴェットは、天才的な頭脳の持ち主。しかし、時代遅れなカウボーイの父と昆虫の研究に夢中な母、アイドルになりたい姉という家族に、その才能を理解してもらえない。さらに弟が突然死んでしまったことで、家族は皆、心にぽっかりと穴が開いていた。そんなある日、スミソニアン学術協会から権威ある科学賞がスピヴェットに授与されることになる。家族に内緒で家出をし、数々の困難を乗り越えて授賞式に出席したスピヴェットは、受賞スピーチである重大な真実を明かそうとするが……。(映画.comより)
レアな作品が田舎落ちして来たので、早速行って来ました。当然ですが、通常公開はとっくに終わっていますので、感想を書く時期が人よりずれているのはご了承ください。
田舎では2Dでしか公開していなかったのですが、この映画の3Dはとっても夢いっぱいの楽しいものだったようですね。後からそう読むととても残念です。あの、スピヴェット君が夢想するホットドッグやヒトの筋肉の解剖図が3Dだったのかと思うと、想像するだけでも笑えて来ます。
さて、小さなスピヴェット君は、俗に言う「天才」です。少し前に見た「ベイマックス」の主人公みたいな感じ。賢すぎて周りから浮いちゃって、学校の先生にまで「君は優秀コンプレックスだ!」と怒鳴られる始末です。
彼のお父さんはレトロなカウボーイ、お母さんは研究熱心な昆虫博士、お姉ちゃんは女優を夢見る現代っ子です。そんな彼の家族は、両親の意向か、ぽつんとだだっ広いところの一軒家に住んでいます。
スピヴェット君には、双子の弟がいました。頭でっかちな彼と違い、弟はがっちりした体格でカウボーイ向き。父親にもかわいがられていました。そんな弟は、ある日銃を触っていて暴発し、亡くなってしまいます。傍にいて弾道を記録しようとしていたスピヴェット君も、驚きや哀しみと共に半ばトラウマになっています。
あまりの出来事に、家族は誰もその出来事に触れません。もちろん、事故だったので誰の責任でもないのでしょうが、彼は心にわだかまりを抱えたままです。
しかし、独白を始めた時のスピヴェット君は10歳。ということは、銃が暴発した時は10歳も含めそれ以下だったはず。ここに、何も言わないけれど「そんな子供に自由に銃を扱わせていた親の責任はどうなんだ」という監督の意図が見えるような気がします。
そんなある日、スピヴェット君の発明が、ワシントンのスミソニアンから表彰を受けることになり、彼のはるばる一人旅が始まります。スミソニアン側は、大人の男性研究者だと思い込んでいるから、電話ではお父さんのふりをし、理解してくれないだろう家族には説明することなくこっそりと家を出たのです。
ここから「ハンボーン」のような人情あふれたロードムービーになるかと思いきや、さほどの出逢いがあるわけでもなく、案外話はすんなりと進みます。
そして会場に就くと「お父さんは?」から始まって戸惑われるわけですが、そこは本当の天才。少し会話して機器の詳しい説明を聞くと、「小さいけれど彼なんだ」と、誰でもわかります。
そこからはパーティでスピーチをしろだの、テレビの有名番組に出ろだのと、お金に絡む依頼が殺到し始め、天才スピヴェット君はとまどうこともしばしばなんですが、そこはジュネ監督。ありきたりな展開になるわけではなく、見えづらい批判(多分)を散りばめながらも、暖かい大団円を迎えます。
ヘレム・ボナム・カーターがうまいですね!また、いつまでも旧型(?)カウボーイのパパも魅力的。最後は快哉を叫ぶ作りとなっています。
おもしろかったですね~、とっても。天才も、つらいのだ。