「アリス・イン・ワンダーランド」「チャーリーとチョコレート工場」のティム・バートン監督が、1960年代アメリカのポップアート界で人気を博した「ビッグ・アイズ」シリーズをめぐり、実在の画家マーガレット&ウォルター・キーン夫妻の間に起こった出来事を描いたドラマ。悲しげで大きな目をした子どもを描いたウォルター・キーンの「ビッグ・アイズ」シリーズは、ハリウッド女優たちにも愛され、世界中で大ブームになる。作者のウォルターも美術界の寵児として脚光を浴びるが、実はその絵はウォルターの妻マーガレットが描いていたものだった。絵は飛ぶように売れていくが、内気な性格のマーガレットは、自分の感情を表すことができる唯一の手段である「ビッグ・アイズ」を守るため、真実を公表することを決意する。マーガレット役に「アメリカン・ハッスル」「魔法にかけられて」のエイミー・アダムス、ウォルター役に「イングロリアス・バスターズ」のクリストフ・ヴァルツ。(映画.comより)
録りおき映画の感想に戻ります。随分溜まっているのですが、劇場で鑑賞したのを優先するので、ついつい溜めてしまいます。
さて、これは実話なんだそうですね。マーガレットさんは、今も存命で絵も描き続けておられるようです。1960年代、まだまだ女性の社会的地位が低かった時代、「女が描いた絵」と言うとそれだけで先入観が生じてしまうような時代に、口八丁手八丁でうまくそれを取り込んだ詐欺師まがいの男と、やがて自立して行く女性の話です。
内気なマーガレット(エイミー・アダムス)は、横暴な夫から逃れて娘とともにサンフランシスコへ。週末の公園で、似顔絵を描いたり、風景画を売ったりする画家の卵たちに混じって、自分も似顔絵を描いています。そこでウォルター(クリストフ・ヴァルツ)と出会います。パリの美術学校で勉強していたとか、とにかく話し好きで話題も豊富なウォルターにすっかり魅了され、二人はやがて結婚。
しかし、ウォルターの風景画はちっとも売れないのに、マーガレットの描いた「瞳の大きな子供」の絵、いわゆる「ビッグ・アイズ」はふとしたことから話題となり、人気が出ます。すると、ウォルターは全部「自分が描いた絵」にしてしまい、売れると見るやポスターや絵はがきなど制作し、商魂たくましく稼ぐようになります。内気なマーガレットは彼に逆らうことが出来ず、家にこもって隠れるようにして彼の言いなりに絵を描くようになります。世の中に「女性が描いた絵」が珍しく、扱いが差別的になることが予想できたということもあるでしょう。今を生きる私たちから見れば、はがゆいばかりの描写ですが、これも時代のもの。誰が悪いわけでもないのでしょう。
また、考えようによっては、口八丁手八丁のウォルターだからこそ、ここまではったりで売り込めたのであって、マーガレットだけならここまで話題にならずに終わっていたかもしれません。とにかく、彼女の「ビッグ・アイズ」はセレブにも圧倒的な人気を誇るのです。二人は郊外に豪邸を構えます。
しかし、ウォルターの化けの皮がだんだんはがれて行きます。実はパリになんか留学していないし、風景画もみな他人の作品で、自分のサインを上書きしていたのです。実際、絵なんか描けない人だったのです。マーガレットが問い詰めるとなんと部屋に火をつけられます。身の危険を感じた彼女は娘を連れてハワイに逃げ出します。マーガレットがいなくなると、絵が生産されません。「離婚してやるから、絵を100枚描いてよこせ」と言われるに至って、さすがのマーガレットも友人たちの支援を受けて裁判を起こすのです。
おとなしいマーガレットをなめてかかっていたウォルターは、弁護士も雇わず自分一人で出廷します。しかし、裁判長に「持ち時間を1時間与えるので、二人とも絵を描きなさい」といわれ、きれいにビッグ・アイズを仕上げたマーガレットに対して、ウォルターは何も描けなかったのです。それでも自分の非は認めなかったですけどね。
しかし、絵を描く才能もないのに、なんで画家を気取ったのでしょうね。あれだけ口が回るのなら、ほかの種類の詐欺師をやればよかったかも。営業に向いてるかもしれないし。このウォルターにクリストフ・ヴァルツを持ってきたのが成功の鍵だったと思いますね。ものすごく調子者の、いいかげんな奴なのに、いやらしくない。憎めないというか。うまい役者さんですね、本当に。またエイミー・アダムスも儚げで頼りない感じが絶妙にかわいかったです。
マーガレットさんの場合はめでたし、めでたしで終わったけれど、案外こういう感じで埋もれちゃった女性って、いるのかもしれませんね。そんなことを考えた映画でした。