よかったですね~しみじみ。
あれほどの大スター、ジェット・リーが見事にそのオーラを消して普通のおじさんに。年齢よりも老けて見えるそのたたずまい。本当にうまい。
自閉症の息子を持ち、母親は早くに亡くなった上、自分も末期の肝臓がんで余命わずか。その主人公が、自分が亡くなった後もなんとか息子が生きてゆけるようにと奮闘する・・・そんな風に書いちゃうと、すごくよくある「涙モノ」みたいで薄っぺらく感じてしまうけど、そこはやっぱりリーが主演のアジア映画。アジア人の琴線に触れるような、価値観の共有みたいなのがあると思うのです。
息子は体も大きく、泳ぎも達者。まるで魚のように泳ぎます。「魚に生まれてくれば幸せだったのに」とつぶやくリーのことばも然りです。リーは水族館で電気技師として長年真面目に働き、息子も水族館に入れてもらっているのです。
でも、これは日本でもそうだと思うのですが、成人した障害者を受け入れてくれる施設がないのです。かたっぱしから電話しても断られます。訪ねて行っても「うちはご覧の通り、幼児ばかりで大人は・・・」とおっしゃる施設長さんもいらっしゃいます。じゃ、この子たちが大きくなったら、どうするんでしょうね?
今までどうしてきたんでしょうね?
しかしながら、紆余曲折の末、やっと施設を見つけても、息子は慣れない施設と突然一人にされたことにとまどい、興奮し、騒いでしまう。
(そして、息子を預けてきたリーだって、寂しさを紛らわせるために息子のマネなどしたりして過ごしているのです・・・)
で、職員の手に負えず、結局お父さん(リー)が施設に一緒に住むハメに。
でも、お父さんは粘り強く、一つ一つ、生きてゆくすべを教えてゆきます。それは完ぺきではないけれど、たとえ一つでも、自分でできることが増えれば、生きていきやすくなるのです。
いよいよ最後には、手作りのウミガメの甲羅を作って背負い、息子と一緒に遊泳します。「いいか、父さんはウミガメなんだ。こうやって、いつもおまえのそばにいるんだよ」そう何度も何度も言い聞かせて泳ぎます。
もちろん、体は続きません。水族館の館長は「病気なのに、こんな恰好で泳いで。泳ぎが達者だった奥さんだって、水の事故で亡くなったんだろう?」と言いますが、そこで奥さんに関する独白を聞いた館長はなにも言えなくなります。
「正直なところ、本当に水難事故で死んだのかな、と思っているのです。妻はとても息子をかわいがっていた。毎日のように海にも連れて行って・・・。ただ、障害がわかってからは、それに向きあえなくなってしまっていた。私は、そんな妻を責めたことはないのに」
そう、そうなんだ・・・。女って、母親って、子供のことに関しては、つい自分を責めてしまって思いつめてしまう。そうなんだ、夫は、いえ、誰も責めてないんだった・・・。なんか、こんなひとことに涙してしまった。泣くところではないのかもしれないけれど。
で、リーはやっぱり亡くなってしまう。よくしてくれた近所の女性、館長、いまの施設の職員、みんなが息子を見守る中、息子の新しい人生が始まる。
ちょっとづつ、ちょっとづつ、お父さんに教えられたことを実行してゆく息子。そして、水槽の中ではウミガメを見つけてその背中につかまり泳ぐ息子。
この映画、上映が終わったときに拍手をしているおじさんがいました。