「アルゴ」のベン・アフレックが、凄腕の殺し屋の顔を持つ謎の会計士を演じたサスペンスアクション。田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフには、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切り、年収10億円を稼ぎ出す命中率100%のスナイパーというもう一つの顔があった。そんなウルフにある日、大企業からの財務調査の依頼が舞い込んだ。ウルフは重大な不正を見つけるが、その依頼はなぜか一方的に打ち切られ、その日からウルフは何者かに命を狙われるようになる。アフレックが主人公ウルフを演じるほか、「マイレージ、マイライフ」のアナ・ケンドリック、「セッション」のJ・K・シモンズらが出演。監督は「ウォーリアー」「ジェーン」などを手がけたギャビン・オコナー。(映画.comより)
勧善懲悪なスカッとしたヒーローものかと思いきや、案外シリアスな映画でした。冒頭、幼い男の子が、とある神経科学研究所を両親と訪れています。どうにも普通の子とは違うところを持ったこの男の子クリスチャンは、落ち着きなくしている割には難しそうなパズルをやっているようです。そばでは弟がおとなしく座っています。どうやらこの子は普通に生まれてきたようです。研究所の先生は入所を勧めましたが、軍人である父親が頑として聞き入れず、連れて帰られることとなります。パズルをやっていた男の子は、最後のピースが見つからず騒ぎ始めます。と、近くにいた、言葉を充分に話せない女の子が彼の意向を察し、ピースを見つけて彼に差し出します。おかげでパズルは完成。男の子はなんと、裏向きでモハメド・アリのパズルを完成させていたのでした(えぇっ!)。これからご覧になる方は、このシーンをよく覚えておくようにしてください。冒頭のシーンが物語の要となります。
さて、「社会では自分で生きてゆくしかない。誰も特別扱いなんてしてくれない」と、息子たちにスパルタに臨む夫について行けず、少年たちの母親は家を出て行きます。母が大好きだったクリスチャンは取り乱し暴れますが、父はそれを抑えこみ「ソロモン・グランディ」の歌を歌って落ち着かせるのでした。この歌は古い民謡ですが、一定のリズムを維持するので、落ち着くにはいいようです。
父は生きてゆくための基礎だけではなく、強さも身につけさせます。ここで彼ら(兄弟)が習得したのがインドネシアの格闘技シラットです。
やがてその飛び抜けた計算力を生かし、会計士となったクリスチャン。表向きは庶民に優しい普通の会計士ですが、実は非合法の組織などの不正会計をも担当し、マネーロンダリングも請け負っている模様です。それでも奴らに殺されずに済んでいるのは、自分自身が腕利きの殺し屋だからです。寡黙に仕事を遂行しながら、時として落ち着くために「ソロモン・グランディ」をくちずさむクリスチャンは、コミュニケーションがうまくとれない「高機能自閉症」です。自閉症でも、知能に問題はないわけですね。いやむしろ優秀です。大きな音や強い光に弱いとされる病気なため、彼は夜な夜な訓練を欠かせません。そんな淡々とした毎日を送っていた彼に、ふと「普通の企業」の依頼が舞い込みます。若い社員が不正会計を見つけたというので、調べて欲しいということでした。過去の記録をさかのぼると言っても、最短で15年。おおかた、偉いさん方は「一朝一夕にはできないし」くらいに構えていたのだろうけれど、クリスチャンは膨大な審査を一晩でやってのけたのです。そこから、彼は危険なことに巻き込まれてゆくことになります。
話は幾重にも重なって、複雑です。単純なヒーローものを予想していて、構えてなかった私はかなり混乱しました。いや多分、きちんと理解しなくてもベン・アフレックの活躍を楽しめると思うのですが。
この映画で特筆すべきはベン・アフレックです。非常にうまい!がっちりとした体格をもてあますようなどぐささを見事に体現しています。「高機能自閉症」をかなり勉強したんでしょうね。本当にうまかったです。それでも素敵な女性、アナ・ケンドリックに好意を持ったり、彼女と話すために相手の目を見るようにしたり、努力もします。でも、普通に恋愛できないことは本人が一番わかっているのです。なんかな~でした。
お勧めです。