ドイツの絵本作家ジュディス・カーが少女時代の体験を基につづった自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を、「名もなきアフリカの地で」のカロリーヌ・リンク監督が映画化。1933年2月。ベルリンで両親や兄と暮らす9歳のアンナは、ある朝突然、「家族でスイスに逃げる」と母から告げられる。新聞やラジオでヒトラーへの痛烈な批判を展開していた演劇批評家でユダヤ人でもある父は、次の選挙でのヒトラーの勝利が現実味を帯びてきたことに身の危険を感じ、密かに亡命の準備を進めていたのだ。持ち物は1つだけと言われたアンナは大好きなピンクのうさぎのぬいぐるみに別れを告げ、過酷な逃亡生活へと踏み出していく。アンナの父を「帰ってきたヒトラー」のオリバー・マスッチ、母を「ブレードランナー 2049」のカーラ・ジュリ、心優しいユリウスおじさんを「お名前はアドルフ?」のユストゥス・フォン・ドーナニーが演じた。(映画.comより)
<2021年1月24日鑑賞>
主人公アンナのお父さんは大学教授。インテリの例に漏れずナチスを批判、演劇などにも厳しい批評を下しています。そんな中、やはり飛ぶ鳥を落とす勢いのナチスが次の選挙に圧勝したら、逮捕・拘束に至るかもしれないということで、家族そろって逃げ出すことに。最初はスイスへ。方言があるとはいえ、スイスの公用語はドイツ語。しかし、ここでは仕事がない、などの理由で次はフランス、パリへ。フランス語なんか微塵も知らなかった子供たちは、最初はとても苦戦。そして、新聞社に細々とした職を見つけたお父さん。ドイツにいるころは裕福だった家族も、この頃は極貧です。ピアニストだったママも、持っていた宝石を売る日々。それでも、優秀だった子供たちは、独学でフランス語をマスターしただけでなく、いい成績も収めるようになります。そしてやっとパリにも慣れたころ、またイギリス移住の計画が。お父さんが書いた”ナポレオンについての物語”が売れたのです、イギリスの出版社に。そしてまたもや一から英語を勉強することを覚悟する子供たち。そんな船出で映画は終わります。これは、絵本作家ジュディス・カーの自伝的物語なんだそうです。
個人的には、彼女のことを知りませんでした。でも、この時代のユダヤの人たちは、筆舌に尽くしがたい苦労をなさっておられるでしょうから、軽々しく受け止めてはいけないのでしょうが、平均ユダヤの人たちはみんな裕福ですね。単に映画で描かれるのにそういう人たちが多いだけなのか、本当に優秀で勤勉な人が多い民族だから高い確率でそうなのか、逸話を残す層に知識人が多いだけなのか。本当のところは詳しく知らないのですが、彼らの最初の裕福ぶりもすごかった(彼らにとっては普通なんだろうけど)。スイスに移った時に最初に泊まるホテルの豪華なことといったら!こんなホテル、死ぬまでに一度でいいから泊まってみたいです。貧乏人は案外オロオロするだけなのかもしれませんが。
そして子供たちの優秀さ。やっぱり彼らは特別なんじゃないかなぁ。皆がこんな風には、いかないと思うんだけど。主人公にはお兄ちゃんがいるのですが、またこのお兄ちゃんがいい子なんです。お兄ちゃんも、健気な妹がいるからしっかり芯を持っていられたのかもしれないけれど。
守るべきものがあるって、強いですね、何よりも。悲壮感をほぼ消し去り、叔父など親戚も含めて結束の固さを描いたこの作品に、そんなことを感じました。