イ・ビョンホン主演で、落ちぶれた元プロボクサーの兄と天才的なピアノの腕を持つサバン症候群の弟が織り成す兄弟の絆を描いたヒューマンドラマ。ボクサーとしてかつてはアジアチャンピオンにまで上り詰めたが、40歳を過ぎたいまは落ちぶれ、その日暮らしをしているジョハ。幼い頃から両親と離れ、孤独の中で拳を頼りに生きてきたジョハだったが、ある日、17年ぶりに別れた母と再会。サバン症候群の弟ジンテの存在を初めて知る。天才的なピアノの腕を持つジンテがコンテストに出られるよう、面倒を見てやってほしいと母から頼まれたジョハは、弟の面倒を見始めるのだが……。イ・ビョンホンが、寡黙で粗暴だが人情に厚い兄ジョハを演じた。弟ジンテ役は「太陽を撃て」のパク・ジョンミン。「王の涙 イ・サンの決断」の脚本家チェ・ソンヒョンが、自ら執筆した脚本でメガホンをとり、初監督を務めた。「国際市場で逢いましょう」の監督ユン・ジェギュンが製作を担当。(映画.comより)
イ・ビョンホンの映画がこんな田舎で上映されてる!都会でも上映館は少ないだろうに。発見した時の驚きは相当なものでした(笑)。これは行かなければ!
ビョンホンの映画は久しぶりです。前回の作品が何だったかを思い出せないくらい。今回製作に回っているユン・ジェギュンの「国際市場で逢いましょう」は、涙が止まらないくらい感動したのを覚えています。ちょっと期待。
難しいですねぇ、本当に。たった一人で生きてきた元プロボクサーのビョンホンは、ふいに長年音信不通の母親と再会。一時は無敵だった彼も人生に行き詰っていたこともあり、母親宅に転がり込みます。そしてそこにはサヴァン症候群の弟がいたのです。弟の存在なんて知らなかった兄。サヴァン症候群がなんなのかも知りません。ただ、普通ではないようです。一生懸命弟の面倒を見ている母を見て、複雑な気持ちです。
<ここから少しネタバレ>
母親は父から壮絶なDVを受けていました。ビョンホンだって殴られていたし、目の前で母がボコボコに殴られているのをただ泣きながら見ているしかなかった幼少期。母は裸足で家から逃げだし、川に身投げしようとしたところを通りがかりの人に止められ、そのまま家には帰りませんでした。その時に妊娠していたのでしょうか、あるいはその後別の人と再婚でもしたのでしょうか。お腹は出てなかったのですが、その辺は説明されません。その後、父と二人暮らしとなり、そのうち父が逮捕されたビョンホンは、とてもつらい人生を歩んできました。幼いのにたった一人、いつしかボクサーとなったのです。愛されることを知らずに大きくなったビョンホンは、引き際がわからず、いつも相手を殴りすぎてしまうので、問題も多く、強くて一目置かれているのにも関わらず、結局行き詰っているのです。
<ネタバレ終わり>
さて、母には「どうして一度も迎えに来てくれなかったのか」と、複雑な思いも持っています。母もつらかったのはわかっているため何も言えませんが、それでも自分一人が残されて、その後どうなるのかは想像できたはずだ、とも思っています。そんななか、手のかかる弟を必死で守っている母親。母は弟を守る意識が強すぎて、兄弟一緒に出掛けた際に弟がなにか問題を起こしても「お前がついてて何をしてるんだい」とか、弟のTシャツがあまりにボロだからと買って帰っても「自分の服を買いたいがために目を離したのか!」と、せっかく3人の生活になじみかけたビョンホンを責めてばかりです。つらいですねぇ。大の男は今更母親に甘えるのは難しい。障害児を守らなければならないのは当然ですが”普通なんだからできて当然”みたいに言われてばかりだとね、「俺だって相当つらかったんだ」ってなっちゃいますよね。弟に罪はないけれど。このへんは胸が痛かったです。
サヴァン症候群の弟には、ピアノを弾くという才能がありました。楽譜を全然読めなくても、聞いただけで弾いてしまえるんですね、絶対音感っていうのでしょうか。中でも、大好きな女性ピアニストの曲は、すべて空で引けるようです。このピアニストのお話も絡んできます。
ビョンホンの暴力父親は、今は刑務所に入っていますが、すべてに対して覚悟を決め、前に進むと決心したビョンホンは、一度だけ父に面会に行きます。しかし、父は変わっていませんでした。「ここを出たら、お前をまた殴ってやるからな」「あの、頭のおかしい弟だろ」・・・涙を浮かべながら「そんな言い方するな」と言い返すビョンホン。アホな父親ですねぇ、自分は歳を取ってるんだから、ボクシングのチャンピオンにかなうわけないじゃないですか。頭悪いんじゃないだろうか。
ともかく、映画はいろんなことがありながらも、前向きに収束してゆきます。話はありきたりなはずなんだけれど、やっぱりホロっと感動してしまいました。人っていいな、月並みだけれど、そう思わせてくれる映画でした。リー・リンチェイの「海洋天堂」を少し想起しました。