定年を迎えた年、生まれてくる初孫に暇にまかせて木馬を作ってやることにした。まずは、電動ノコ、糸ノコ、電動ドリルなどの電動工具を買い、設計図を引いて1カ月かけて木馬を完成させた。これを契機に、台所用品やガーデンチェアー、薔薇のアーチ、オベリスク、トレリスなどを奥さんの注文に応じて楽しみながら手作りしてきた。
遊び心で、道路に面した庭の入り口に「工房木馬」と糸鋸でくり抜いた木製の看板をぶら下げて、ここが木工の店であるかのように装ってみたりもしている。
それから17年が経った。看板を見てかどうかは分からないが、数人から「こんなものを作って欲しいのですが」と言って、木工品の依頼が入ることがあった。絵を描く時に使うイーゼル、調味料を乗せる棚箱、紙芝居の舞台、大きな表彰状額、玄関先に置く額縁型のプランター、刺繍糸を収納する箱など大小さまざまなものを作ってきた。
ここしばらくはそんな依頼もなく過ごしていた先日、知り合いの生け花の師範から初めて見る妙な写真を見せられた。「こんなものを作っていただけませんか」と、熱心に頼まれる。生け花を台の上に乗せて飾るとき、背景として使いたいという。
言ってみれば、大きな額縁を2枚蝶番でつないだようなものである。1枚の大きさは縦横が90cm*60cmのものと、55cm*45cmの大小2組で、生け花の背景として屏風のように立てるという。
仕上げとして、艶消しのペンキを塗ることにした。一緒にホームセンターに行き、適当な木材を調達して帰り、2日かけて作り上げた。何度も塗装すると漆を塗ったように厚くなり、贔屓目に見るからだろうか家具のようにきれいに見える。
出来上がったことを電話すると「来年の3月に使うのでゆっくりでよかったのですよ」と言われ「私は何でもすぐやる課」ですからと答えておいた。このくらい大きなものを、全く同じ大きさで、きっちりとした長方形のものを2つ作るということは、思っていた以上に結構難しい仕事である。
来年3月には、この背景をではなく、その前に飾られた生け花を、ぜひ鑑賞してみたいと思っている。