写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

天高く 馬肥ゆる秋

2018年10月17日 | 生活・ニュース

 季節は今、秋もたけなわ。稲刈りも終わり、道の駅を覗くと、イモやカキ、松茸やクリなど秋の収穫物がたくさん並べられていて、食欲をそそられる。まさに「天高く 馬肥ゆる秋」の通り、空は澄み渡って晴れ、馬が食欲を増し、肥えてたくましくなる絶好の秋を迎えている。

 ところがこの諺、「なぜ秋に、敢えて馬が肥えるというのだろう」と、ふと疑問を感じて調べてみた。「天高く馬肥ゆる秋」の由来は、中国の故事にある。秦滅亡後に建てられた中国の王朝・前漢(紀元前206年-8年)時代には、北方の遊牧国家・匈奴(きょうど)との争いが激化していた。当時既に万里の長城の一部は建設されていたが、匈奴の侵入を防ぐのに十分ではなかった。

 匈奴は秋になると収穫物を奪いに大きく育った強い騎馬で侵入してくることが多かった。そのため、前漢の将軍は次のように述べて、敵襲に備えよと皆に警戒を促した。

 「雲浄くして妖星落ち 秋高くして塞馬肥ゆ」(くもきよくして ようせいおち あきたかくして さいばこゆ)。「妖星」とは不吉な出来事の前兆、「塞馬」とは北方の馬、ここでは騎馬民族・匈奴の馬のこと。秋になると匈奴の馬が大きく強く育ち、その馬で攻め込んでくるから警戒せよといった内容である。

 当時の中国は、秋といえば北方の異民族が収穫期の作物を狙って南進してくる季節。辺境の軍事拠点では馬を肥えさせて防衛に務めなければならなかった。「空が高くなってきた。秋が近いぞ。そろそろ匈奴が馬に乗って収穫を奪いにやって来るぞ。みんな戦闘準備だ!」ということなのである。

 現代使われている「天高く馬肥ゆる秋」の意は、「空は澄み渡って晴れ、馬が食欲を増し、肥えてたくましくなる秋。秋の好時節をいう言葉」であるが、本来は全く異なる戦闘準備の意味であったことを知った。