写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

ファイティング ポーズ

2018年10月05日 | 季節・自然・植物

 台風25号が接近している影響であろう、朝からどんよりと雲が垂れ、小雨が時おり降っている。そんな朝、玄関のドアを開けて1歩を踏み出そうとしたとき、タイルの上で小柄なカマキリが、ドアに向かってじっとしているのを見つけた。

 久しぶりにカマキリと対面した。座り込んで横から眺めてみた。まだ小粒であるにもかかわらず、逆三角形の頭を私の方に向け、ファイティングポーズをとっている。「さあ、いつでもかかってこい」と言わんばかりの姿勢である。

 ファイティングポーズといえば、ボクシングで戦う意志を示すためのポーズであり、ノックダウンから立ち上がった後で試合続行の意思表示としてレフリーから求められることがある、あの姿勢である。すなわち、戦うための姿勢、戦う意志を示す構えのことである。

 カマキリは漢字で書くと「蟷螂」と書き「とうろう」とか「いもじり」などと読む。「蟷螂(とうろう)の斧」という慣用句があるが、カマキリが斧の形をした前脚を挙げて、大きな車に向かってきたという故事からきたもので、勇気ある者のたとえであった。

 しかし、その後「力のない者が、自分の実力をかえりみず、強い者に立ち向かうことのたとえ」として使われるようになったというが、始めから負け戦と分かっていても男たるもの、戦いを挑んでいかなければいけない時もある。

 小さなカマキリが、ファイティングポーズを取っている姿勢を眺めながら、ふと昨今のワイドショーを賑わせている面々のことに思いを馳せてみた。ところで「蟷螂」は、俳句では秋の季語だという。

 子蟷螂 生まれながらの 身の構え    (松永昌子)
 蟷螂の 斧向けたるは われなるや     (刈谷次郎丸)