写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

拾い物

2018年10月18日 | 生活・ニュース

 車に乗って奥さんと買い物に出かけた帰り「吉香公園に行ってソフトクリームでも食べようか」といい、公園内の空き地に車を止めた。少し涼しくなったせいだろう、夏場には観光客が長い列をなしていたソフトクリーム屋さんも、数人が並んでいるだけであった。

 奥さんがソフトクリームを両手に持ち、待っていた私の方に戻ってきた。辺りを見渡すと芝生の上に4脚のベンチが設置されているが、いずれにも誰も座っていない。木陰にあるベンチに座り、通る人を眺めながらおいしく食べた。

 さて、立ち上がろうとして、ベンチの端を見ると、何やら黒い革財布のようなものが目に入った。何だろうと思い、手に取って二つ折りのものを開いてみると、スマホである。

 カード入れには、持ち主の車の免許証のほか、身分証明書や2種類のクレジットカードなどが差し込んである。すべて英語で書いてある。どうやら米軍岩国基地の兵隊さんの持物のようであった。

 周りを見回しても、身分証明書に写っている顔写真のような男は見当たらない。ここに置いていては悪用されるかもしれないと思い、警察署に届け出ることにした。しかし錦帯橋の近くには、観光客が大勢やって来るにもかかわらず交番はない。

 1kmも離れたところにある錦帯橋交番に行ったが、入り口にはかぎが掛かっており「御用の方は本署に電話をしてください」との紙が貼ってある。仕方なしに、岩国駅に近い本署まで走って、拾い物を届けることができた。

 この拾い物、正確には落とし物か忘れ物かは知らないが、届けてから放免されるまでに30分くらいかかった。まず拾った人の住所と名前を聞く。拾った場所は地図を出して住所を調べる。中身を全部出していちいち記入する。拾得した人の権利を放棄するかしないかを問われる。落とした人からのお礼の連絡などしてよいかも聞かれる。すべての権利を放棄して、無事に警察署を出た。

 拾い物は、拾った人も私のように暇人でないと届け物の処理には時間がかかる。私も以前、置き忘れたデジカメを拾ってもらったことがあることを思い出した。かくて、小さな秋に小さな恩返しができたというお話だが、それにしても錦帯橋界隈に、交番がなさすぎではありませんかねえ。