例年に比べて、ややしのぎやすく感じた今年の夏であったが、真昼は外に出かける勇気が出ない暑さであったことに違いはない。日中はエアコンの効いた部屋でテレビを相手に過ごしていた。そんな夏が終わろうとしている先日、久しぶりに裏庭に目をやって驚いた。
奥さんが丹精込めて育てている80本のバラ園が、なんと腰ほどの高さの雑草に埋まり、どれがバラなのか眼を凝らしても見分けることが出来ない状況となっている。未だ行って見たことはないが、これこそが熱帯に分布するサバンナであろうと想像してみた。
確か6月にはバラが美しく咲いていた。それがこの2か月で、見るも無残な雑草の園に変わっている。「雑草のごとく……」とは、 転んでも踏まれても立ち上がるしたたかさを表現するときによく使う言葉であるが、まさに自然児・雑草の強さを実感するばかり。
数日前から、見るに見かねた奥さんが朝早く起き、涼しい間を見計らって草を抜き始めたが、1人ではなかなかはかどらない。「お父さんも少しは抜いてくださいよ」「うん、わかった。やるよ」のやり取りが、朝食をとっているときに2、3回あった。
昨日、早起きをし、思い立ってサバンナに立ち向かうことにした。軍手に麦わら帽子、半そでに長ズボンの出で立ち。棘のあるバラを避けながら両手を交互に動かし草を抜いていく。たちまち大きな草の玉が一つ出来上がる。また一つ、また一つ玉が出来た。3つが出来たころには額から汗が落ち始める。半そでで立ち向かった腕は、バラの棘や草の硬い茎で傷だらけ。
40分もやれば体力的に限界が来た。腰を伸ばしながら家に入る。シャワーを浴びると、腕の傷跡がひりひりする。やっと朝食。起きがけのひと仕事の後の食事はおいしく、ことのほか進む。年に1度、肉体労働の爽快感を味わう。
2日目の朝も、早朝草抜きをやった。もう1日分くらいが残っている。朝食を終えた後、改めて庭を眺めに出た。見るに堪えなかったサバンナが、手の入った公園のバラ園に少し近づいて見えた。「家のバラ園がさ、公園の花壇のまねすることねんだよなあ」と、どこかで聞いたことがあるようなセリフを、奥さんの背中で小さく言ってみた。