写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

烙 印

2013年05月09日 | 生活・ニュース

 他人のちょっとした失敗や欠点を見たようなとき、「あいつは○○なやつだ」と周囲の者が決めつけることが時にある。そんなことが度重なってくると、いつの間にか「あいつはこういうやつなんだ」と烙印を押される。

 烙印は英語ではBRANDと書き、品質・等級・製造元・所有者などを示すための焼き印のことでもある。「ブランド商品」という表現の語源にもなっている。しかし、烙印といえば、過去には刑罰としておこなわれ、一生涯にわたって払しょくされない汚名を受けることを意味している。

 焼き印はそんなおぞましい使い方だけではなく、近頃ではいろいろな使い方を目にすることが多い。宗教登山が盛んな富士山や御嶽山では、宗教登山に使用される木製の金剛杖に焼印を有料で押印するサービスが山小屋ごとに行われている。また、蒲鉾や饅頭などの食品に文字や模様を入れるためにも多用されている。木製品には管理用の文字や模様を入れるための焼き印も多い。

 この連休中、錦帯橋祭りが催され、上河原では毎年恒例のフリーマーケットがあり出かけてみた。数年前には、2,000円出して古い柱時計を買って帰った。分解掃除をして油をさすと動き始め、振り子の長さを何度かネジで調整すると誤差も少なくなり、今でも心地よい音を書斎に響かせてくれている。

 そんな昔懐かしいものがあればと思って見て回っていると、直径が3cm弱の小さな丸い焼き印を200個ほど並べている店の前に出た。どこかの店の商標のようなものや漢字が一文字彫ってあるものが入り乱れて置いてある。私の名前の1文字でもないかと探していたら、「友」という字を見つけた。段ボールをちぎった紙に「1個500円」と表示してある。「これ下さい。少しまけてよ」と言うと「これがいっぱいの値段じゃから」と女店主はつれない。

 言い値で買わされたものを持ち帰りガスレンジで焼き、昔作った木工のキッチン用品に押し当ててみた。シュウーと白い煙を上げて木が焼ける。離してみるとキツネ色した「友」の文字がくっきりと現れ、DIYの木工品が木曽の高級工芸品に見えたのは目の錯覚か。DIYの品が「手作りの安物木工品」との烙印から逃れた瞬間であった。顔の額に押すわけにはいかないし、他の使い道に目下苦慮している。