写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

仏の霍乱(かくらん)

2017年02月27日 | 生活・ニュース

 いつもは健康で病気などしたことのない人を「鬼」に例え、そんな人が珍しく病気になることを、「鬼の霍乱」と表現することはよくある。見慣れないこの「霍乱」の意味を調べてみた。もがいて手を振り回す意味の「揮霍撩乱」(きかくりょうらん)の略で、日射病や暑気あたりなどで夏に起こる激しい吐き気や下痢を伴う急性の病気のことだという。

 日ごろから鬼と呼ぶほど強くたくましくはないが、生活習慣病やその他の持病を抱えながらも、まあ元気に毎日を送っている後期高齢者の男がいると思ってくださいませ。毎年この時期、知り合いの内、一人か二人からは、風邪やインフルエンザに罹って往生したという話を事後に聞いていた。

 その都度「健康管理だけは自分でしっかりしないといけませんなあ。私なんぞは、かれこれ、40年間、風邪なんぞ引いて寝込んだということはありませんよ」と、少し小鼻を膨らませていた。若いころ、毎年1度くらいは「風邪を引きましたので」と言って、朝一番に会社を休む旨電話をしたことがあったが、いずれもずる休みの言いぐさであったので、本当に風邪とは無縁な毎日を暮らしていた。

 ところが、土曜日の午後、リビングルームでうたた寝をしていた時、エアコンをつけているのに寒気がする。「おかしいな」と思い体温計を持ち出して測ってみると「37.4度」もある。過去に37.4度もあったようなことはなかったかもしれないが、こんな時にはいつも三共製薬の「ルル3錠」を、処方箋通りに3錠飲んで寝れば、風邪らしきものはどこかへ吹っ飛んでいくのが常であった。

 今回も同じ調子で、軽めの夕食を済ませルルを3錠飲んで早くから休んだ。咳も鼻水も出ず、のども痛くないが翌朝になっても体温は下がっていない。その日も昼食抜きでベッドで丸1日休んでいた。「もうよいでしょう」と、水戸黄門が乱闘中の助さん格さんにいうセリフのようなことを言いながら測ってみると38.4度もあった。

 これではいけない。すぐ近くにある救急病院へ駆け込んだ。日曜日とあって5、6人の患者が一様にマスクをして座っている。年配の女医さんが親切丁寧に診てくれた。鼻水の検査の結果インフルエンザではないという。抗生物質など3種の薬をもらってまたベッドへ。

 3日目となった今朝は、薬石効あってか無事平熱に戻り、食欲も少し出てきて、いつもの明るい家庭となりましたとさ。今回の教訓「他人に『私は風邪は引かない』などとあまり自慢しないこと」。かくして「鬼の霍乱」ならぬ「仏の霍乱」のお話はおしまい、おしまい~