毎年2月に入ると奥さんと向かい合って、年に一度の定例作業が始まる。確定申告の書類を作成する仕事である。2017年の申告期間は2月16日から3月15日までとなっている。夫婦二人とも持病を抱えており、何かと病院のお世話になる機会の多い我が家の医療費はバカにならない。
1年間溜めていた領収証を整理して、年間の医療費の一覧表を奥さんが数日かけて黙々と作る。私はというと、送られてきた申告書に、医療費のほか国民年金と、企業年金の額を、この時期に送られてくる「源泉徴収票」を睨みながら、間違いのないように記載していき、納めるべき税額を算出する。
この税額と源泉徴収された税額との差が、私のちょっとした小遣いに相当するほどの額として還付されてくるのが毎年の常である。ところが今年、肝心の企業年金の源泉徴収票が送られてこない。例年であれば1月の後半には送ってくるものがである。
ここ1週間、気にしながら届くのを待っていたが何ら音沙汰はない。思い余って、勤めていた会社の東京本社にある年金担当部署に電話を入れてみた。はきはきとした若い男が対応してくれる。「わかりました。1月16日に送付しているはずですが、もう一度送るように伝えておきます。お名前と生年月日をお願いします」という。
それに答えると「あっ、茅野さんですか。私は梅野といいます。岩国では人事課にいました」「私のことを覚えていますか。ありがとうございます。あなたのことも覚えていますよ。お元気そうで。頑張っていますね」とエールの交換をする。
この男は、新入社員のころから仕事では縁がなかったが顔はよく知っていた。「何歳になりましたか?」と余計なことを聞いてみると、55歳だという。「私は75歳になりました」と言って、おかしくもないのに笑い合った。「働き盛りですね。お元気で頑張ってください」と言って電話を切った。年金が減っていく寒々しい中にあって後輩の懐かしい声を聴き、気持ちが温かく少し元気になってきた。