ある同好会の席で、生まれて初めての珍しいお菓子を食べさせてもらった。会員Iさんの奥さんの里である鹿児島から送ってもらった「あくまき」(灰汁巻き)というものである。次のような説明を聞いた。
鹿児島県本土、宮崎県など南九州で、主に端午の節句に作られる独特な季節和菓子で、ちまきとも称される。
一晩ほど灰汁(あく)に漬けて置いた餅米を、同じく灰汁に漬けておいた竹の皮などで包み、麻糸や竹の皮から作った糸で縛り、灰汁で3時間~半日程度炊いたもの。
餅米が煮られることで吸水し膨張するが、頑丈な竹の皮で包まれていることで、自らの膨張圧力で餅のようになる。また、灰汁の強アルカリによって、澱粉の餅化と、べっ甲色の色づきが行われる。餅ながらねばりは少なく水分が多いため、柔らかく冷めても硬くならない。
ほぼ無味なので、砂糖や砂糖を混ぜたきな粉、黒蜜、砂糖醤油をふりかけたりするのが一般的な食べ方である。
切る時は、刃物では付着したり柔らかすぎて切りにくいため、包丁などではなく、糸をくるりと巻いて切っていく。
始まりは諸説あるが、薩摩藩が関ヶ原の戦いの際、または豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、日持ちする兵糧として作ったものといわれている。
こんな蘊蓄を聞きながら、その場で糸で切ったものを、きな粉でまぶして頂いた。ぷるぷるとした食感で、普通の餅とは全く違う。どちらかというと、くず餅のように感じた。餅米を灰汁で煮ることで、説明通り米粒とは似ても似つかないものにおいしく大きく変化していた。
一般に灰汁は、食べ物に含まれる渋みや苦み、不快な臭いなどの元になる嫌われ者であるが、使い方によっては、こんなに効果的な使われ方がある。アクの強い人間もまたしかりか。