写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

一時帰宅

2011年05月11日 | 生活・ニュース

 東電の原発事故で、立ち入りが規制されている警戒区域内の住民の一時帰宅が10日、川内村で実施された。2時間の滞在時間中、支給された70cm四方のポリ袋に持ち帰るものを入れたり、ペットや、家畜の安否を確認するなどした。
 仏壇に水を備えたり、ポリ袋に娘の結納の写真、古いアルバム、位牌、年賀状のファイル、行方不明の肉親の写真など、様々なものを各人が持ち出したという。
 小さなポリ袋では、大したものを詰め込むことはできない。貴重品のほか写真など思い出となるを持ち帰る人が多かったことは共感できる。
 この記事を読んだあと、こんな状況下に置かれたとき、私は一体何を持ち帰るだろうかと考えてみた。まず奥さんに聞いてみた。即座に「預金通帳と印鑑」と答える。こんな物は持っていなく、この非常事態では、預金を下ろすなんて何とかできそうな感じはするが、まあ持っているに越したことはない。現実的な答えが返って来た。
 では私なら何を持ち帰るだろうか。いろいろ思い浮かべてみるが、やっぱりこのパソコンと外付けハードディスクとデジカメか。パソコンの中には住所録、金融関係の資料、過去7年書きためたエッセイ、同好会の資料など、定年後生きて来た私の足跡の全てが入っている。
 それ以上に大切なものがあるが、これは残念ながらポリ袋に入らないばかりか、持ち帰ることが禁じられている。ハートリーである。
 被災地でそれぞれが飼っていたペットや家畜は、一体どうなっているのだろう。テレビのニュースを見ていると家畜を小屋から放った人もいる。季節がめぐり、草のなくなる時期にはどうなるのかを心配していた。ノラになった犬や猫たちは、何を食べれば生きていけるのか。警戒区域が解除されない限り、彼らの行く末は、誰に聞かなくても想像できる。
 テレビで家畜やペットが映し出される画面が出ると、私はすぐにチャンネルを変えてしまう。放っておかれた彼らの眼をじっと見るに堪えないからだ。やるせない。彼らの眼は、何かを必死に訴えているように見えた。飼っていた当事者のはち切れる様な気持ちが、痛いほど分かる。でもどうしようもない。
 原発とはそういう設備であり、今の我々の豊かな生活は、そんな電気の力に支えられているということを再認識して、これからのことを考える。