「あった、あったわよ」、奥さんが夕食の買い物から帰ってきて、ポリ袋をテーブルの上に置きながら、何やら手柄を立てたような顔をして言った。
袋から水が入った2個のポリパックを取り出した。早春の風物詩と言われるシロウオが浅い水の中で泳いでいる。3割引きだったというだけあって、半数のシロウオはすでに横になっている。残り半数はまだ元気に泳いでいた。
今津川のシロウオ漁も、年々漁獲量が減っているのは知っている。今年も2月初旬に解禁となっているが、近くのスーパーではついぞ見ることはなかった。今年はもう口に入ることはないと思っていた3月の末になって、初めて売り場で見つけたという。
早速、夕食での調理方法について話し合う。いつものことだが、踊り食いというやつはどうしてもできない。口の中であたかも残虐な行為をしているような罪悪感が、シロウオの味を無味乾燥なものにしてしまう。いつものことながら吸い物にすることにした。泳いでいるときには薄茶色の透明な体だったものが、お椀の中では降ったばかりの雪のように真っ白い。
濃く味付けられた煮魚のような旨さは感じないが、そこはかとない春の香りがしてくる。シロウオという魚は、味覚ではなく眼で味わう魚かもしれない。
全部で60匹くらいいたようだ。貧乏症のせいか、いつも1匹がいくらに相当したのかを計算してみる。5年前は1匹10円だった。今年もほぼ同じ値段であった。漁獲量が減ってきたというが、値段から判断すると、それほど減少してはいないのではないかと少し安心した。
例年ならこの時季満開になる隣家のモクレンは、今年はまだ3分咲き。やや遅い春がゆっくりとやってきている。