東京で写真家として成功した弟の猛(オダギリ ジョー)と地方に残り実家の家業のガソリンスタンドを継ぐ兄の稔(香川照之)。二人は幼なじみの智恵子(真木よう子)とともに懐かしい渓谷へと足をのばす。そこで起こったひとつの出来事。事故なのか、事件なのか。その出来事をめぐって、弟と兄の人生がゆれ動く……。何度か観た予告編から受けた印象では、もしかして観念的な思い込みの強い映画なのではといったお節介極まりない危惧があったのだけど、とんでもない! そんなものすっかり消え失せ、その見事なまでに完成された映画世界を大いに堪能することが出来た。
賢兄愚弟というべきか、あるいは愚兄賢弟とでも言うべきか。とにかく兄たり難く弟たり難し、そして兄弟優劣遜色なしと言うけれど、対称的なシチュエーションに置かれた二人の兄弟のまさに「ゆれる」思いがスクリーンを通して見事に伝わってくる。
「自分が人殺しの弟になるのが嫌なだけだよ、猛。」
そして二人の互いに揺れる気持ちとともに、予想が次々と裏切られ、観ている側は何が真実なのか確信をもてなくなってしまう二転三転する構成。
そうした二人の心情を凡百の法廷ドラマよりはるかに緊張感高く描かれる裁判の場に持ってくることによって明らかにしてみせる鮮やかな演出。
さらには見事に練りこまれたリアルさ溢れる兄弟二人のキャラクター。
とにもかくにも、原作本を安易に映画化することが目立つ最近の日本映画界において、監督自ら書いたという人間の心理の奥深くに切り込んだスリリングな脚本が圧倒的。
そしてそんな監督の確かな人間観察力が窺い知れるひとつひとつの仕草や表情に見られるそうした思いの的確な描写、とにかく見ごたえ充分の秀作であることに間違いない。
大都市での上映はほぼ終わっているようだけど、芸達者な香川照之に劣らず、多分今までの中で一番役者として最高の演技を見せているオダギリジョーの好演ぶりも含め、機会があれば是非。強く強くオススメ。
今日の1曲 “ Reason To Believe ” : ROD STEWART
あくまでも個人的嗜好で言わせてもらうならば、この映画で唯一残念だったのが、エンディングで流れる少々明るすぎる曲調の曲でした。
あれはあれで歌詞的に映画にあっていたかもしれませんが、いささかあの場にはそぐわなかったような気がしてなりませんでした。はい。
と言いつつ、この曲が似合っているとは決して思いませんが、何となく題名(元々は知る人ぞ知るティム・ハーデンの曲)から無理矢理(!?)引っ張ってきてみました。
ソロ初期の頃のロッドって、本当にイカしていて、そんな中でも71年リリースのこのアルバム「Every picture tells a story 」は本当に名盤デス。
騙されたと思って、是非TSUTAYA、もしくは iTune Music Store のコチラへゴー!ちなみに悲しいくらい体型がすっかり中年してしまっている(苦笑)アンプラグドでのライヴの模様はこちらで
主演2人の好演で、見ごたえありましたね。
ラストシーンには号泣でした。
原作があると、どこかをはしょったりせざるを得ないことが多々ありますが、
オリジナルではそんな余計なことが発生せず、時間内にドラマがしっかり収まる、
これってやっぱり大事だと思います。
■mimia さんへ
映画の流れ的には、あそこはやっぱり「乗って」しまったんじゃないかと
思いますが、どうでしょう?
兄弟だからこその駆け引きに、見ている側もまた引き込まれざるを得ない!
本当によく出来た脚本でありました
TBどうもでした~
さすがオダギリファンのミチさん。確か公開当時、京都で2回観てらっしゃった?
はずなのに、またまた鑑賞とは。
でも確かに、再度観たくなる映画でした。
■mig さんへ
>このふたりだから良かったんだろうな
絶対とは言えませんが、多分そうだなと思わせてしまう好演ぶりでした。
キャスティングと演出の幸せな出会いだったのではと。
■雄さんへ
そうなんです。ひとつの方向性に固まらず、いろんな展開をして欲しい監督
だと思いますし、それが可能だと思わせる才能を感じました。
とにかく今年の邦画では一番印象に残る作品でした。
■ツボヤキさんへ
確かにオダギリジョーは「儲け役」だったです。
それでも監督の要求に応えた演技は、彼に対する認識が変わるだけの
ものがありました。
そして「演出」のある映画の面白さを堪能させてもらいました。
う~む、またも遅れている(苦笑)
ま、その内に、ですね。
オダギリジョー儲け役でしたね。
一人の役者の巧さが周囲を照らす。
照らされた周囲がその明かりの下で
いっぱしの反応を演らされた、という印象も
あるデスね。結果OK、と。
香川照之、いっつもどこでもそこそこ巧い印象を
残す、といった存在に終始してたですが、
それは、彼が際立って活かされる場所が邦画には
なかったからデス。
この監督の存在は、邦画界においても「大」です。
素晴らしい脚本と素晴らしい役者たちの演技で
とても感動する作品でした。
このふたりだから良かったんだろうな、、、、
この映画ご鑑賞の前は頭が「ゆれ」たとのこと、災難でしたね~。
なるべくゆとりを持って行動するのが身上なのですが、私も時々とんでもなく慌てていろいろやらかしてしまう事があります。
打っちゃったところは大丈夫ですか?
さて、「ゆれる」ですが、私もヒゲメガネの支配人さんから「土日はあふれるほどの人だったんですよ~」と嬉しそうに報告していただきました。
一昨日みにいたときも半分くらいは入っていたし、シネモンドには珍しいですよね。
口コミの力だと思うのですが、このように心ゆすぶられる作品がじわじわと観客を集めるって素晴らしいと思います。
世間では「フラガール」が大絶賛です。
あちらは誰もが感動できるいい映画ですし、大きなハコで動員力もあるでしょうが、この「ゆれる」もぜひぜひたくさんの人の目に触れたらいいなと願っています。