季節の変化

活動の状況

アルゼンチンの通知表

2009-06-03 07:25:00 | Weblog
“世界の表彰・評価”から、“指標”を定めて、“数値”で、
日本の通知表”をみたが、同じ指標で、
アルゼンチンの通知表”は、どうなるだろうか?

アルゼンチンの南東に“フォークランド島”がある。
人口2千人、羊毛や漁業で生計を立てている。
このフォークランド島の領有権をめぐって、
アルゼンチンとイギリスが戦争をした。
フォークランド戦争(1982年)である。

「イギリス国民が1人でも助けを求めている限り、世界中どこにでも救助に行く」
時の首相サッチャーが、イギリスから1万3千キロメートルも離れた、
フォークランド島にイギリス軍を派遣した。
原子力潜水艦から魚雷を発射して、アルゼンチンの駆逐艦を沈めた。
2か月間にわたる攻防で、イギリスが勝って、フォークランド島を領有している。

このフォークランド島のことを、アンドレスに聞いてみた。すると、
「“マルヴィナス島Malvinas”といって、アルゼンチン固有の島だ。
フォークランド島Falkland Islandsとは、イギリスの呼び名だ」
と、本来はアルゼンチンの領土だ、と怒っている。

アルゼンチンの地図(外務省のホームページの地図を使って作成した)。

「イギリスがアメリカと結託して、アルゼンチンに戦争をしかけてきたのだ。
マルヴィナス戦争で、アメリカは同盟国であるイギリスを支持して、
アルゼンチンが使用する武器の情報を提供した」
と、形相(ぎょうそう)が険(けわ)しい。
こんなにっている外国の人を、見たことがない。

「“地理的”にも“歴史的”にも、マルヴィナス島はアルゼンチンの領土だ。
地理的には、アルゼンチンから480キロメートルのところにある島だ。
イギリスからは1万3千キロメートルも離れている」
そして、アンドレスは、紙きれをさがして、アルゼンチンの地図を描き始めた。

アンドレスが描いた地図。

「アルゼンチンの本土から、深さ200メートルの大陸棚の範囲に、
マルヴィナス島は含まれるから、国際慣習上アルゼンチンの領土だ」
と、アルゼンチン本土の外側に深さ200メートルの“”を描いて、
マルヴィナス島がその範囲に含まれていることを示した。
そして、“MALVINAS”と書き入れた。

「歴史的には、スペインの植民地であったマルヴィナス島は、
アルゼンチンがスペインから独立した1816年から権益を継承した。
住居、電気、医療などの社会基盤は、これまでアルゼンチンが整備してきた。
イギリスはマルヴィナス島の主権をいったん放棄することにしたのだが、
“鉄の女”サッチャーになってから態度を一変させたのだ」
と、イギリスが、マルヴィナス島を領有していることに、
アンドレスは憤懣(ふんまん)やるかたない。
「今でも、アルゼンチンは、領有権の主張を継続している」
と、つけ加えた。

マルヴィナス島のことを、イギリス人にも聞いてみた。
「フォークランド島の人たちは、われわれイギリス人と姿かたちが似ているよ。
それに、フォークランド島には石油が出るからね、その権益を守りたい。
でも、石油が枯渇する数10年後には、どうなるのかな?
南アメリカにおけるイギリス軍の重要な基地として、残すだろうな」
と、遠く離れたところにある島には、どこか冷めている。
イギリス人にとっては、アイルランド紛争や、中東のイランや、
イラクへの派兵の方が、よほど身近な関心事なのだ。

第二次世界大戦では無傷の戦勝国、そして、マルヴィナス戦争を経験している、
アルゼンチンの通知表”をみたい。

ランク…AA=3位以内 A=10位以内 B=20位以内 C=30位以内 D=40位以内。
1)創造力: ノーベル賞の受賞者3人は16位→ランクB。
2)芸術力: カンヌ映画祭でパルム・ドール受賞作品はない→ランクF。
3)学力:  PISA2006の15歳の知識と技能は52位→ランクF。
4)文化力: 文化遺産は4で50位→ランクE。
5)運動力: サッカーのワールド・カップ優勝2回は4位→ランクA。
 陸上競技世界記録はない。
6)経済力: 国民総生産は30位→ランクC。
7)援助力: 政府開発援助はなし→ランクF。
8)総合力: ランクC。


アルゼンチンのレーダーチャート(2009年6月)。

[総合評価]
“創造力”のノーベル賞の受賞者が3人で、16位はりっぱである。
南米からは、アルゼンチンだけが受賞国になっている。
中米からはメキシコが受賞国で1人受賞している。

“芸術力”のカンヌ映画祭でパルム・ドール受賞作品はないが、
タンゴ・ショウ”がある。

「港湾労働者のつらい境遇とか、去って行ったガールフレンドに呼びかける歌です」
と、タンゴ・ショウを案内してくれたマリアは説明する。
「夢を抱いてアルゼンチンまで移民した。だが、生活はちっとも楽にならない……。
恋人よ、帰って来てくれ! あんなに愛し合ったのに、どうして去ったんだ……」

「イタリア移民の港湾労働者から発生したタンゴは、労働者の悲哀を歌う、
低下層の歌でした。でも、1930年代に優れた作曲家や歌手が登場して、
タンゴが高められて、普及しました」

「タンゴ界の第一人者にカルロス・ガルデルがいました。
フランスからの移民で、歌手として、作曲家として大成功しました。
それで“ガルデルのようになれ!”という言葉が、アルゼンチンにはあります。
“がんばって、成功しよう!”という意味です」


タンゴ発生の地、港(ボカ)にあるカミニート通り。ブエノス・アイレス。
外壁を青、ピンク、橙、黄色と原色が雑多に塗られた2~3階建ての家が連なる。
まるで映画のセットのようで、カラーフルな家並みは100メートルほど続く。
「屋根は、石の代わりにトタンが使われているところもあって、冬は寒く、夏は暑い。
1階は安酒場、上階はベッドで、当時は売春宿であった」
と、アンドレスは言う。
いまでは、みやげものや、アパートメントで、観光名所になっている。

“運動力”のサッカーでは強豪だ。
ワールド・カップでは、2回優勝している。
1978年アルゼンチン大会と、1986年メキシコ大会。

1位はブラジルの優勝5回、2位イタリア4回、3位ドイツ3回に次ぐ。
4位ウルグアイ2回、6位はイギリス、フランスで、ともに1回の優勝。

サッカーでは、国民的な英雄マラドーナがいる。
1986年のワールド・カップ、メキシコ大会は、マラドーナの大活躍で優勝する。
準々決勝で宿敵イングランドと対戦して、マラドーナの“神の手”による、
疑惑の1点”、それと、“華麗な5人抜き”で、2対1で勝った。

神の手とは、0対0で迎えた後半、マラドーナがイングランドの、
ゴールキーパーと、空中で競り合って、ヘッディングでゴールを決めた……
かに見えた。ところが、左手を上げてパンチングをして、ボールをネットに入れた。
イングランドは審判に激しく抗議したが、受け入れられなかった。

華麗な5人抜きとは、神の手から4分後のマラドーナの“ワン・マン・ショー”で、
アルゼンチン陣内から、巧みなドリブルでイングランドのディフェンスを、
つぎつぎと突破して、ゴールにボールを蹴り込んだ。

「1982年のマルヴィナス戦争の“あだ討ち”をしてくれた」
と、アルゼンチンの国民は歓喜して、マラドーナの凱旋を迎えた。
ブエノス・アイレスの名誉市民となり、“サッカーの神様”として、
アルゼンチンの国民的な英雄となっている。

“経済力”では、資源に恵まれた豊かな国だった。
パンパ”という大草原のトウモロコシや小麦、肉牛によって、
経済が大発展して、第二次世界大戦で世界が疲弊したときにも、
戦禍をこうむることがなかったから、巨額の黒字があった。
しかし、アメリカをはじめとした外国資本を国有化する国家社会主義政策を、
とってから、クーデターが起こり、政治、経済の混乱に陥った。

激しいインフレーション、“ハイパー・インフレ”に襲われて、
100万ペソ紙幣”を発行した。それを、
ブエノス・アイレスの骨董店で見つけて、400円で買った。

100万ペソ紙幣。Sampleと入れて撮影した。

1ペソを40円とすると、4千万円の大金持ちになった……わけではない。
「この100万ペソは、現在では流通していない。
それに、当時は4千円ほどの価値だった」
と、アンドレスは言う。

“マルヴィナス戦争”(1982年)は、結局アルゼンチンが敗れた。
国内情勢はますます悪化して、軍事政権は崩壊した。
ロシアの通貨危機(1988年)が中南米に飛び火して、1ペソを1ドルに、
連動させたままの固定相場制のアルゼンチンは、ペソの価値が上がって、
輸出競争力がなくなった。
そして、対外債務の支払い停止を宣言する非常事態に陥った(2001年)。
変動相場制へ移行して(2002年)から、輸出が復活し、観光による収入が、
増えてきた。
2003年からは、経済成長率が毎年8パーセント台と景気が回復している。
“ガルデルのようになれ!”で、成功を目指してがんばる国だ。
アルゼンチンは、南アメリカの政治、経済の中心である。

1982年のマルヴィナス戦争から8年たって、
イギリスとは国交を回復した(1990年)。
「アルゼンチンは、マルヴィナス島の領有権の主張を継続している」
「マラドーナの“華麗な5人抜き”で、イギリスにあだ討ちをした。
アルゼンチンは2回優勝しているが、イギリスは1回だ」
マルヴィナス島の領有権と、ワールド・カップの優勝をめぐって、
アルゼンチンとイギリスとのライバル関係は続く。


ブエノス・アイレスが、スペインからの自治を宣言した大聖堂(1810年5月)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする