MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

困ったときに

2010-07-16 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳をやっていると
時々判断が難しいことがあります。

たとえば、医師が通訳者にだけ耳打ちしたことを通訳するか?

患者が医師に隠している病気に関する重大な事実について
知っている通訳者は黙っておくのか?

医師と患者の間に文化の違いによるコミュニケーションの齟齬がおきたら?

医療通訳者同士で集まると必ずケーススタディになります。
海外の事例はあっても日本の医療現場には日本独自の医療文化があり
私たち医療通訳者自信が、ケースごとに自分たちで
正解を見つけていかなければなりません。

そんな時基準にしているふたつのことがあります。

ひとつめ。

「この人が日本語のわかる人ならどうするか」

ふたつめ。

「病気や怪我を治すという医療の目的に忠実であるか」

たとえば、医師が通訳だけにわかるように
患者の悪口を日本語でいうという場面があります。
これを訳すのかどうか、いつも悩むところです。

私は、患者には医師や病院を選ぶ権利があり、
患者の前で言葉がわからないとはいえ、
医師が患者の悪口を言っているという情報を
患者は得るべき権利があると思っています。
もし患者が日本語に通じていれば
聞いて得ることができた情報だからです。

そういう医師や病院を変えるのか、我慢するのかは患者が決めることです。

反面、医師や病院を選べないケースもあります。
たとえば市町村にたったひとつしかない助産制度を受けられる病院であったり、
都道府県唯一のHIV・AIDS治療の拠点病院であったり、
隣の病院まで遠くて患者が通うことのできる唯一の病院だったり。

その場合は、もしかしたら
悪口を訳さずに何も知らない患者に気持ちよく医療を
受けてもらうほうがいいのかもしれません。

医療通訳のマニュアルといわれることがありますが、
医療現場の通訳場面でおきることは、
いつもその場での適切な判断が必要です。

A場面では正解でもB場面では不正解になることもある。
だから私たちには研修が必要なのです。