ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

北朝鮮における拉致被害者の救出とぜんぜん関係ないじゃん(4月12日更新)

2018-04-16 00:00:00 | 北朝鮮・拉致問題

前に記事を書きましたが、次の本を某公立図書館で借りました。

自衛隊幻想 拉致問題から考える安全保障と憲法改正

この本を紹介した産経新聞の記事(つまり自社の本を自分で宣伝しているだけですが)は

>自衛隊が拉致被害者を救出できる現実を知ってほしい

とまで書いています。

それで、目次を見ますと

>第一章 おかざりになった自衛隊
第二章 「死んでこい」に理由がない
第三章 自衛隊は朝鮮半島有事に働けるか

というのは、連中のイデオロギーについて書いてあるので、これはどうでもいいですが(これは賛成なら賛成、反対なら反対というもので、この際私は興味はありません)、第四章の自衛隊による救出シミュレーションの話である

>自衛隊による拉致被害者救出シミュレーション

>第五章 他国は自国民を救出している

というのをちょっと論評してみようかなと思います。

ていうかそもそも、安倍晋三が国会で

>拉致被害者を救出することはわが国はできない。特に相手国の同意が必要であり北朝鮮がそれをするとは考えられない。

答弁している以上(国会議事録は確認していません)、自衛隊による拉致被害者救出なんかできるわけもないのですが、そして連中は、(建前では)安倍晋三をやたら支持している(いた)はずですが、少なくともこの件については連中は安倍の認識を強く批判している模様です。直接言及がなくても、このような本を出版するということはそういうことでしょう。

なお以下は、拉致被害者が北朝鮮で生存しているということを前提とします。亡くなっていれば話の前提が成り立ちませんが、ここは先方の主張にのっとります。

それで、拉致被害者救出シミュレーションですが、1つは改憲不要のもの、もう1つは改憲を必要とすると連中が主張するものですが、まず拉致被害者の所在が清津というのでずっこけます。清津に設定する理由は、

>理由の一つは、そこに北朝鮮の工作船の基地があること。もう一つは、写真週刊誌の『FLASH」(二〇一三年六月二五日号)に、松本京子さんが清津にいるという記事が掲載され、その場所までわかっていたからです。(p.112)

だそうですが、後のほうはともかく、最初のほうは別に拉致被害者の所在なんかに関係ないじゃないですか(苦笑)。

だいたい連中ですら

いまはそこにいないと思いますが、「松本京子さんがそこにいる」という想定でシミュレーションをしてみようということです。(同上)

と書いているくらいで、馬鹿らしいにもほどがあります。清津とか元山のような日本海沿岸の街のような、日本に大変都合のいい場所に設定するというのが実に馬鹿らしいですね(笑)。なぜ平壌や平安北道、平安南道、新義州、黄海側でないのか(笑)。最初の設定からしてインチキです。

それで

>平壌で騒乱が発生したことから北朝鮮が無政府状態に陥り、それを国連が認めたという前提に立ち(同上)

というような、いわば宝くじに当たるような話はしないほうがいいんじゃないんですか?

宝くじに当たればそれに越したことはありませんが、これぜんぜん現実性も蓋然性もないじゃん。仮にその街に日本人拉致被害者がいたとして、その人たちが第三者に確認されるなんて事態はきわめて考えにくいじゃないですか。だいたい上のようなことが万一本当に起きたら、自衛隊なんか出るまでもなく何らかの機関に保護されて、外務省の役人に引き渡されてそれで話は済むんじゃないんですかね。これは保護した後の話ですが、そして彼(女)らが日本帰国を希望すればですが、いろいろあってそう緊急な日本帰国を希望しないかもしれないし、そういったことの説得も何も、いろいろ時間もかかりそうです。

また改憲を必要とするというシミュレーションでは、

>多国籍軍司令部から、自衛隊に対して、清津市に日本人が確認されたという情報が提供され、これを政府が確認したところ、過去に北朝鮮により拉致された被害者であると断定。(p.112)(引用者注・馬鹿らしいので以下引用省略)

とありますが、前にも書いたように、そんなの自衛隊が出るまでもなく多国籍軍が保護するでしょう(笑)。多国籍軍が保護できないのなら、自衛隊も保護できません。何をこんな馬鹿な話を書いているんだか。

ところで以上のシミュレーション(なんて代物じゃありませんが)を見ていると、けっきょく荒木らも「事前に拉致被害者の所在を確認しておいて、そして平時に自衛隊が北朝鮮を強襲して救出をする」ということは不可能であると考えているようですね。だから上のような他力本願の話になるのですが、こんなのは三文アクション小説よりもっとひどいですね。そもそも

①北朝鮮で内乱が起きる

②それによって無政府状態になった街に日本人拉致被害者がいて、その存在が多国籍軍等の団体に確認される

なんていう2重3重に強運が必要な仮定をしておいて、おまけに仮にそのような事態があったとしても、救出に自衛隊の出動が必要とは考えにくいのでは、馬鹿も休み休みいえのレベルでしょう。まあつまりは、できもしないことをできると主張するからこんなめちゃくちゃな話になるわけですが、あまりにひどすぎてお話にもなりませんね。こんな話のどこが

>自衛隊が拉致被害者を救出できる現実

なんでしょうか。馬鹿でもなければ精神異常か嘘つきクズというレベルでしょう。

さてさて、次は

>他国は自国民を救出している

ですが、以下のような、

>諸外国の自国民救出の事例(p.139)

の実例が紹介されています。面倒ですが、ご紹介します。なおその作戦の概要も書かれていますが、これは省略します。が、けっこう興味深い点もあるので、興味のある方は本なりネットの情報などをご確認ください。以下、漢数字は算用数字に変えます。

>リベリア 1990年/複数国調整搬出(原文ママ)(アメリカ、西欧諸国)

ソマリア 1990年/複数国、個別救出(アメリカ、イタリア)

ルワンダ 1994年/複数国、個別救出(イタリア、ベルギー)

イエメン 1995年/複数国調整救出(フランス、ドイツ、アメリカ)

中央アフリカ 1996年/単一国(フランス)および複数国調整救出(フランス、アメリカ)

アルバニア 1997年/複数国、個別および調整救出(アメリカ、西欧諸国)

ザイール(現コンゴ民主共和国) 1997年/複数国、個別および調整救出(アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー)

カンボジア 1997年/複数国、個別救出(オーストラリア、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポール)

エリトリア 1998年/単一国(イタリア)および複数国調整救出

シエラレオネ 2000年/単一国(イギリス)救出

ソロモン 2000年/複数国、個別救出(オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア)(p.139 ~134)

アルバニアについては、かつて産経も、葛城奈海なんていう極右ライターが嬉しそうに書いていましたね。シエラレオネも産経が記事にしていました。それでこれらの救出作戦の中で、北朝鮮による拉致のように

①完全敵地である

②救出対象者の所在・生死不明

③拉致されたのが約40年以上前が多数、早くても30年以上を経過している

という状況で、人質(というよりここで紹介されている事例は、多くは取り残されて現地から出国できない、もしくは出国困難な人たちです)救出を実現したなんていう事例のものがあるんですかね? ざっと読んだところないように思いますが。私の勘違いかもしれないので、あるということを知っている人がいたら、ぜひご教示ください。

こんな話をいくら積み重ねられたって、北朝鮮に拉致された人の救出なんて話に何の関係もないじゃないですか。もっとも上の都合のいいシミュレーションが実現すれば①と②はクリアされますが、そんなのは宝くじに当たることを前提として人生設計をするようなもので、馬鹿らしいにも程があります。

上の例は、かならずしも軍事的な人質救出を実現したものではありませんが、軍事的な人質救出を実現した事例というのは、前にも書いたことを繰り返しますと

人質の所在が分かっている(わからなければ作戦を遂行できません)

多くの場合敵地ではない(敵地であれば作戦成功の可能性は極小です。エンテベ空港は例外)

危急の状態である(だから危険な強硬作戦がありうるのです)

ということです。つまり上のものと正反対です。エンテベ空港の救出作戦は、たぶん敵地で本格的な救出を成功させた数少ない(唯一の?)事例かと思いますが、これはイスラエルの建設会社がエンテベ空港のターミナルを建設したので詳細な図面があり、よってイスラエル側も詳細な計画や演習(ターミナルの建物を模した部屋で訓練をしました)を可能としたわけです。また解放された人質から詳細に状況を聞き取って、ゲリラの人数や配置、人質との位置関係などを可能な限り把握しました。こんなの自衛隊の拉致被害者救出に参考になるようなものではない。しかもこのときは、人質がターミナルに固まっていたのです。ターミナルから病院に搬送された人質は殺害されました。北朝鮮拉致は、所在の分からないどこかにみんなばらばらに暮らしています。当たり前でしょう。

こんなのが北朝鮮拉致にあてはまらないことくらい、荒木だってその他の元自衛隊員たちだって、理解しないほどの馬鹿でも精神異常者でもないでしょう。何をこういう連中は、こんな愚劣なデマや与太をほざくんでしょうか。いい加減にしてほしいと思います。

北朝鮮から拉致被害者を自衛隊で救出するというのは、イスラム国に拉致されている人質の救出、昔のポルポト時代のカンボジアで、行方不明の外国人を救出するようなものです。特に後者は、そんな作戦が実行、成功した話を私は知りません。知っている方がいたら教えてください。北朝鮮だって、韓国ですらそんなことをできていないことを少しは考えるべきです。「ランボー」じゃないのです。

前にも記事にしましたように

拉致被害者5人が帰国できたのは、奇跡のようなことだったのだと思う

ということじゃないですかね。あのような奇跡が何回もあるわけがない。拉致被害者家族が気の毒だという話はともかく、自衛隊で救出できるなんていう与太やデマは、愚劣にも程があります。

コメント (8)
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