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858 都井(宮崎県)冬陽浴び枯れ草を食む都井の馬

2019-01-29 09:41:03 | 大分・宮崎
犬や猫の可愛いさは理解できるものの、私は特段の動物好きというわけではない。むしろ関心は植物に向きがちで、動物はどちらかといえば付き合いが苦手なのだろう。しかし「在来種」とか「野生」「希少」といった注釈が付いたら話は別だ。宮崎県最南端の都井岬には、絶滅さえ危惧される天然記念物の御崎馬が、野生のままに生きているという。陸地の先端に孤立する馬のコロニー。これは会いに行かねばなるまい。



都井岬は日向灘の南の端を区切るように、太平洋に小さく突き出している。戦後の合併で串間市が発足するまで、岬は都井村に含まれていた。地図の上では盲腸のような頼りない半島だが、先端の灯台部分が標高240メートルだというから、なかなかどっしりとした山塊である。舗装された山道を行くと、「駒止の門」で停止させられる。岬一帯は柵で囲われており、ここが唯一の出入口だ。協力金400円が徴収される。



ここからが御崎馬のサンクチュアリとなる。550ヘクタールの広さがあるという。「門」を通過すると間もなく、丘陵部は草地、深い谷は植林地というパッチワークのような風景が広がる。青森県の尻屋崎や種差海岸で似た風景を見ている私は、それが馬の放牧によって生まれる草原であることがすぐにわかった。馬が草を食むから、樹々の芽も食べられてしまい、樹木は伸びようがないのだ。阿蘇の「草千里」も同類だろう。



岬の地勢そのままにクネクネと曲がる山道を行くと、白く輝く灯台が現れて行き止まりとなる。岬の先端部に着いたのだ。1929年に点灯した都井岬灯台は、九州で唯一の参観灯台なのだそうだ。内部が公開されている灯台のことで、全国64基の灯台のうち15基が対象だ。いつもなら私は高いところへ登りたがるのだが、この日は極端に疲れていて断念する。疲れは前夜宿泊した宮崎のホテルが劣悪だったからだろう。



まだ1頭も、馬に出会っていない。ビジターセンター「うまの館」に行ってみると、休館日だった。がっかりして館を一回りすると、裏の焼却炉のようなところに白骨が放置されていた。長い頭部だから、馬だとわかる。野生のままに生き、死んでいった馬なのだろうか。駒止の門の内の一生は、平穏ではあっても、それは果たして馬として満足できる生涯であったか。骨に感情移入してしまったようで、寂しい気分になる。



しかし御崎馬はいた。カーブを曲がると2頭が唐突に現れた。車を降りるわれわれを気にすることもなく、道路脇の草地をゆっくり移動しながら、枯れ草の中のわずかな緑を探して食んでいる。「あそこにも!」の声に振り返ると、反対側の稜線でも姿を晒している。御崎馬は現在、100頭ほどが生息しているとみられ、地元の都井御崎牧組合が手厚く管理している。体高は130センチ、体重300キロ程度と可愛い馬だ。



赤穂浪士が吉良邸に討ち入る5年ほど前、高鍋藩がこの岬に牧場を拓いたのが始まりだという。日本在来馬を野生に近い状態で放牧し、明治になって組合に払い下げられる。今では木曽駒や道産子とともに、貴重な在来馬だ。青森の尻屋崎では今ごろ、寒立馬が雪霙に吹き晒されているだろうが、ここでは御崎馬が陽光を浴びている。どちらが幸せだろうか。彼らは限りなく愛らしく、どこまでも寂しそうである。(2019.1.7)



















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