今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

465 鶴居(北海道)タンチョウが居る湿原に近寄って

2012-07-14 17:01:59 | 北海道
美しい街の名前といえば、舞鶴や鶴岡といった「鶴」の付く名が思い浮かぶ。日本人にとってツルは、美の象徴なのだ。そしてここは鶴居村。本当に鶴が居るからこの名になったという本家である。それもツルのなかで最も美しい、タンチョウの楽園なのだ。私たちは釧路湿原国立公園・温根内ビジターセンターにいる。霧か雨か判然としない靄の中を、遊歩道が森の奥へと誘っている。この道を行けば、タンチョウに会えるのだろうか?



会えるはずが無い。美の化身は、そう簡単に人の目に触れないのである。村では11月から翌春まで、何カ所かの餌場でタンチョウの繁殖を手助けしているようだから、その季節なら確実に美しい乱舞を観ることができるのだろう。だが私は3年前の夏、釧路湿原のさらに東の霧多布湿原で、タンチョウに遭遇する幸運を得ている。朝靄の中、一羽のタンチョウが川の浅瀬を私に近づいて来たのである。私を意識しながら、ゆっくりとだ。

(霧多布湿原=2009.8.20)

そして数メートル先を通り過ぎ、おもむろに大きな羽を広げるや、飛び立って行った。頭に丹のキャップを載せ、まっすぐ前を見据える澄まし顔と、それを支える首の伸びたバランスのいいこと! 尾の黒が、純白のドレスを引き立て、あくまでも細い脚を優雅に交差させる様は、自然が生んだ最も優美な姿態の一つだろう。岡山・後楽園のタンチョウは、ゲージの中で猛々しかったけれど、湿原の朝を楽しむ野生にそんな粗野は無い。

(霧多布湿原=2009.8.20)

釧路湿原には何カ所かの展望施設がある。私は3年前、釧路駅から観光列車に乗って湿原東側の細岡展望台に登った。見事に霧がかかって、湿原は全く見えなかった。今回は期待を抱いて湿原西側の釧路市湿原展望台に出向いたのだが、前回以上の悪天候で展望台に登ることすら断念した。そこで温根内のビジターセンターにやって来たのだが、釧路湿原の特別地域内に建つ観察施設にはミズバショウが咲き、ウグイスが鳴いていた。



鶴居村は1885年(明治18年)、釧路から移住した農家27戸によって拓かれた。開拓民の目に、タンチョウはどのように映ったものだろう。すでに激減していたタンチョウは、明治末には絶滅してしまったと考えられた。それが大正13年に釧路湿原で10数羽の生息が確認され、以後湿原は、タンチョウの繁殖地として保全されるようになった。不毛の大地はタンチョウのサンクチュアリへと出世したのである。タンチョウはいまや村の宝だ。



鶴居村の年表は明治の入植から始まる。しかしこの地域には、1万年以上前から人の暮らしがあったことが「北斗遺跡」に刻まれている。湿原の縁にある台地で、旧石器時代人の火の痕跡や、縄文時代の住居群が発掘されているのだ。この湿原縄文人と本州縄文人の系譜はどこかで交わるのか? アイヌやオホーツク文化にどうつながって行くのか? そんなことを想うと、私の気持ちは高鳴って来る。入植以前にもムラはあったのだと。



それにしても「鶴居」はそのまんまの村名である。せめて「鶴舞」とか「鶴住」の方が情緒がありそうにも思うけれど、それを決められるのは住民だけである。鶴居村も「日本で最も美しい村」連合のメンバーだ。今度の旅で北海道の美瑛町と鶴居村を知ったが、他に行ったことのある「美しい村」は群馬県の昭和村、中之条町六合。奈良県の曽爾村、十津川村。長崎県の小値賀町しかない。まだまだ旅を続けなければならない。(2012.7.2)














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