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群馬の人は東の赤城、西の妙義、そしてその中程に聳える榛名を、親しみを込めて「上毛三山」と呼ぶ。このうち榛名山は、今でこそ最高峰が1449メートルの、さほど高山とは呼べない山容を県域の真ん中に横たえているけれど、50万年前には標高が2500メートルに達する富士山のような火山だったらしい。秀麗な姿はその後の噴火や山体崩壊で、悪い歯並びの見本のような姿に落ち着いてしまった。せめて山頂に登って榛名富士を眺める。
(榛名湖の東南15キロ、高崎市井出の「上毛野はにわの里公園」から望む榛名山の稜線)
「上毛」とは、古代・上毛野(カミツケヌ)国のことで、そのころ、とは上毛野国造がこの地域の支配者だった6世紀末、榛名の峰の一つ・二ッ岳(1344m)が大噴火し、東麓に大量の火山灰を降らせた。近年、考古学上の大発見と騒がれた渋川市金井東裏遺跡の「甲冑を纏った古墳時代の成人男性」は、この火山灰に埋もれていたのだ。その噴火から百年余が経って編纂された万葉集には、「伊香保呂」「伊香保嶺」など9首の伊香保歌が採られている。
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伊香保温泉から路線バスに乗って榛名湖畔にやって来た『すずめ通信』の面々は、山の反対側へ回り込む別のバスを待つ間、静寂が支配する湖畔で澄んだ冷気を吸い込んでいる。「かわいい湖なのね」とNagano雀は想像との差に驚いたようで、「諏訪湖より小さい」と無用の比較を試みる。「確か『湖畔の宿』の舞台だった」と気がついたChiba雀は「山の淋しい湖に‥‥」と口ずさみ始め、Tokyo-e雀は「聴いたことないわ」と冷めた風情である。
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榛名湖を挟んで伊香保温泉とは反対側になる西側山腹に、榛名神社が鎮座する。巨岩の蔭に建つ本社は国の重要文化財で、榛名修験の霊地の趣は十分である。創建は7世紀に遡り、火と土の神を祀っているのは火山信仰であろうか。参道の入り口に建つ高崎市「榛名歴史民俗資料館」は、榛名火山に寄せる往時の人々の思いを解説、「二ッ岳の噴火の記憶が生々しい人々は、榛名山を『イカホ(怒る峰)』と呼んでいた」と、興味深い説を掲げている。
(Chiba雀写す)
脚に自信がないTokyo-k雀ら3人は資料館で休息を決め込み、神社参拝には未だ元気なChiba雀を特派する。特派員は間もなく参道一帯の写真を次々と送って来る。鮮やかな新緑、澄んだ渓流、岩を伝う滝など、山岳信仰の雰囲気が盛り上がる。ところが巨岩に包まれた朱塗りの社殿といった、肝心の本殿が送られてこないまま戻って来た。「どうしたのか」と責めると、修復工事で入れなかったという。神社は今、百年ぶりの大修理中なのだった。
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大鳥居の周辺には「吉本坊」「瀧之坊」などと大書された看板が下がっている。江戸時代には100戸500人の社家町が賑わっていたのだ。戦後になってもなお15軒ほどの宿坊が営まれていたという。上毛三山は赤城にも妙義にもそれぞれ神が祀られ、立派な社殿が建てられている。人はなぜ、自然の中に神を感じ、祀りたくなるのだろう。私には判らない感覚だが、実際に水と緑と澄んだ空気に身を浸していると、確かに神々しいほど心地よい。
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朝から青空が広がっている。だが予報は午後から荒れると告げている。私が人生で雷を最も身近に感じたのは、50年前の榛名湖畔であった。まるで頭上10メートルあたりでドカンドカンと暴れる雷を、車の中で味わった。再び路線バスで高崎に出て「20年総会」は解散だ。雀たちから「帰宅した途端、土砂降り」とメールが届く。ふと「30年総会はもうないかな?」と考える。こういう思いになった時だけは、老いることが腹立たしい。(2024.6.3)
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(Chiba雀写す)
(同)
(同)
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「上毛」とは、古代・上毛野(カミツケヌ)国のことで、そのころ、とは上毛野国造がこの地域の支配者だった6世紀末、榛名の峰の一つ・二ッ岳(1344m)が大噴火し、東麓に大量の火山灰を降らせた。近年、考古学上の大発見と騒がれた渋川市金井東裏遺跡の「甲冑を纏った古墳時代の成人男性」は、この火山灰に埋もれていたのだ。その噴火から百年余が経って編纂された万葉集には、「伊香保呂」「伊香保嶺」など9首の伊香保歌が採られている。
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伊香保温泉から路線バスに乗って榛名湖畔にやって来た『すずめ通信』の面々は、山の反対側へ回り込む別のバスを待つ間、静寂が支配する湖畔で澄んだ冷気を吸い込んでいる。「かわいい湖なのね」とNagano雀は想像との差に驚いたようで、「諏訪湖より小さい」と無用の比較を試みる。「確か『湖畔の宿』の舞台だった」と気がついたChiba雀は「山の淋しい湖に‥‥」と口ずさみ始め、Tokyo-e雀は「聴いたことないわ」と冷めた風情である。
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榛名湖を挟んで伊香保温泉とは反対側になる西側山腹に、榛名神社が鎮座する。巨岩の蔭に建つ本社は国の重要文化財で、榛名修験の霊地の趣は十分である。創建は7世紀に遡り、火と土の神を祀っているのは火山信仰であろうか。参道の入り口に建つ高崎市「榛名歴史民俗資料館」は、榛名火山に寄せる往時の人々の思いを解説、「二ッ岳の噴火の記憶が生々しい人々は、榛名山を『イカホ(怒る峰)』と呼んでいた」と、興味深い説を掲げている。
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脚に自信がないTokyo-k雀ら3人は資料館で休息を決め込み、神社参拝には未だ元気なChiba雀を特派する。特派員は間もなく参道一帯の写真を次々と送って来る。鮮やかな新緑、澄んだ渓流、岩を伝う滝など、山岳信仰の雰囲気が盛り上がる。ところが巨岩に包まれた朱塗りの社殿といった、肝心の本殿が送られてこないまま戻って来た。「どうしたのか」と責めると、修復工事で入れなかったという。神社は今、百年ぶりの大修理中なのだった。
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大鳥居の周辺には「吉本坊」「瀧之坊」などと大書された看板が下がっている。江戸時代には100戸500人の社家町が賑わっていたのだ。戦後になってもなお15軒ほどの宿坊が営まれていたという。上毛三山は赤城にも妙義にもそれぞれ神が祀られ、立派な社殿が建てられている。人はなぜ、自然の中に神を感じ、祀りたくなるのだろう。私には判らない感覚だが、実際に水と緑と澄んだ空気に身を浸していると、確かに神々しいほど心地よい。
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朝から青空が広がっている。だが予報は午後から荒れると告げている。私が人生で雷を最も身近に感じたのは、50年前の榛名湖畔であった。まるで頭上10メートルあたりでドカンドカンと暴れる雷を、車の中で味わった。再び路線バスで高崎に出て「20年総会」は解散だ。雀たちから「帰宅した途端、土砂降り」とメールが届く。ふと「30年総会はもうないかな?」と考える。こういう思いになった時だけは、老いることが腹立たしい。(2024.6.3)
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