今年は大学で「教師論」を担当しています。受講生が200人を超え、一苦労していますが、学生がかわいくて毎週いそいそと出かけています。
最初の出会いの日に、今日の教育問題で関心のあることを書いてもらいました。すると「モンスターペアレンツの問題」と約60人が書いていて少々驚きました。親は、モンスターじゃない、どうしたら仲良くなれるかと講義で語っています。
さて、私の学んでいる研究サークルに6年目の若い由美先生がいます。一年生のクラスに病気の子がいて、手術をひかえていました。「クラスの子に忘れられたらどうしよう…」とポロッと不安をもらす7歳です。この言葉を聞き、自分に何ができるかと考える由美先生でした。
まだ我が子のいない先生は、親同士の方が、今の親の気持ちがわかり合える、としおりちゃん家族へのメッセージを募集。忙しい親たちが書いてくれるのかという不安はいっぺんに吹き飛び、集まってきたたくさんのおたよりに、由美先生は胸がいっぱいでした。
「両親の入院で私も経験しております。病院で働いてもいましたので、病院で付き添うご両親の大変さを実際に見て知っております。どうかお身体を大切になさってください。しんどい時は、遠慮もあると思いますが、どんどん甘えてください。私にもぜひお願いします。車での送迎などもできます。お困りの時は、気軽にご連絡くださいね」
子どもたちは毎日、手紙を書き、千羽鶴を折り始めました。手術日が決まり、急ぎ鶴を折ろうと保護者にも呼びかけると、たくさんの方がかけつけてくださったのです。1組だけでなく2組も3組も協力しました。あっという間に千羽鶴が折り上がり、2人のお母さんが届けに行ってくれたのでした。
■子らが主治医に手紙
さらに子どもたちは、手術がうまくいくように主治医の先生にお手紙を書きたいと言い出し、届けに行くことになったのです。
「山川先生、かおりちゃんをたのみますよ」けんじより
「かおりちゃんを元気にしてくれてありがとうございます。山川先生大すき。しゅじゅつがんばってね」はるかより
「山川先生、ゆうたくん(クラスのマスコット人形)をびょういんに入れてくれてありがとう。かおりちゃんをおねがいします。はやく、かおりちゃんにあいたいです」みくより
みんなの大好きなマスコット人形を病室に付き添わそうと考え、お願いしたところOKが出たので「ありがとう」と言っているのです。
この主治医の先生、子ともたちの手紙を読んで、手術前の多忙ななかクラスの子らにお返事を送ってくださったというのですから、まさしくドラマです。いえ、子どもたちが大人の心を動かしたのです。
「一ねん一くみのみんなへ
おてがみありがとうございます。かおりちゃんは、ゆうたくんといっしょに、まいにち、がんばっています。
みんなのおてがみで、みんながかおりちゃんをしんぱいしていることがよくわかりました。かおりちゃんも先生もがんばって、はやくげんきにがっこうにいけるようにします。みんなで、かおりちゃんをおうえんしていてください。
○○病院小児科医 山川」
手術も成功し退院してきたかおりちゃんを、子どもたちも親たちも心から歓迎してくれたことは言うまでもありません。
かおりちゃんのお母さんは、なんと一人ひとりの保護者の方にお手紙を書き、お礼の言葉を届けたということでした。
今の親はモンスターだ、などと言わせません。
私の実践を聞いた若い仲間たちが「土佐先生だから親とそんなに仲良くなれたんですね」と言いましたが、いいえ、自分のクラスの親たちもこんなに素敵で、こんなに仲良くなれたのだと実感しています。
今、親たちは、先生と仲良くしたい、親同士つながって子育ての悩みも語り合い、手をつなぎ合いたいと願っているのです。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)