分子科学研究所の瀬川泰知准教授は、名古屋大学の伊丹健一郎教授、加藤健太大学院生(研究当時)、理化学研究所の高場圭章特別研究員、眞木さおり研究員、米倉功治グループディレクターらとの共同研究によって、有機溶媒中で自己集合しナノファイバーを形成する湾曲ナノグラフェンを開発した。
炭素68個、水素28個からなる湾曲ナノグラフェンを合成し、各種有機溶媒と混合したところ、約1日でゲル状態になった。ゲル中における湾曲ナノグラフェンの重量比は1%以下であり、効率的なゲル化剤であることが分かった。
透過型電子顕微鏡によって、ゲル中において湾曲ナノグラフェンがナノファイバーを形成していることが観測された。
置換基をもたないナノグラフェンが超分子ナノファイバーを形成する例はこれまでになく、集積構造の詳細な解析が求められたが、得られたナノファイバーは最も細いもので直径約3ナノメートル、それが束になった部分でも最大で数100ナノメートルと非常に細いために、従来法であるX線結晶構造解析では解析できなかった。
そこで、微結晶の解析が可能な電子回折結晶構造解析を適用したところ、ナノファイバー内の分子配列を詳細に明らかにすることができた。
ファイバー内では分子が互いの凹凸に合わせて秩序よく整列し、さらに二重らせん状に絡まった形で直径2.8ナノメートルの1本のファイバーを形成していることが分かった。分子の凹凸によって、置換基のない湾曲ナノグラフェンが超分子ナノファイバーを形成できることを示した。
同研究によって、分子の凹凸デザインという新しいナノファイバー形成方法が見いだされた。炭素ナノファイバーは分子エレクトロニクス材料として期待されている材料であり、同法によって得られたファイバー内でさらに炭素炭素結合を形成することによって、これまで不可能であった様々な炭素ナノファイバーの合成が可能になることが期待される。(理化学研究所<理研>)