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●科学技術ニュース●産総研、化学品生産におけるCO2排出量と製造コストを最小化する溶媒の評価方法を開発

2024-03-28 09:35:14 |    ★炭素ニュース★
 産業技術総合研究所(産総研)化学プロセス研究部門 山木 雄大 主任研究員、片岡 祥 研究グループ長らは、化学品を生産する全工程を通してCO2排出量と製造コストを最小化する溶媒を、シミュレーションにより選択や評価できる方法を開発した。

 この方法は、合成反応に用いる溶媒について、目的化学品の反応収率だけでなく、物質の抽出や使用後のリサイクルプロセスまでも考慮している。

 化学品の合成反応では、反応収率の一番良い溶媒が用いられている。しかし、リサイクルプロセスの性能が悪い場合、反応収率が高く合成反応に最適と選択した溶媒が、生産プロセス全体ではCO2排出量と製造コストについて最適でないことがある。

 今回開発した評価方法では、目的化学品の反応収率だけでなく、抽出や溶媒のリサイクルプロセスまでシミュレーションを行うことで、化学品生産プロセス全体のCO2排出量と製造コストを数値化し、最適な溶媒を特定することが可能となった。

 N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とIPAは、相対的な収率がともに1であっても、化学品生産プロセス全体のCO2排出量と製造コストは、NMPを用いた方がIPAと比較してそれぞれ15%と17%削減できることを見いだした。

 また、トルエンを用いた場合の収率は0.42だが、収率1のNMPを用いた場合と比較して、CO2排出量と製造コストはそれぞれ1.3倍と1.4倍程と、収率の違いから予想されるほどには増加しなかった。これは、トルエンのリサイクルがNMPよりも容易なため。

 ここでは、反応収率の高い溶媒が、CO2排出量と製造コストの点で優れている結果となったが、シミュレーションでは、トルエンの反応収率が向上したと仮定した場合、NMPやIPAを用いるよりもCO2排出量と製造コストを下げられる可能性があることも示した。

 これらの知見は、反応収率だけでは得ることができず、化学品生産プロセス全体の性能を考慮することで初めて明らかとなった。

 この方法は、さまざまな合成反応にも応用できる可能性があり、反応開発の段階から化学品生産プロセス全体のCO2排出量と製造コストを最小化するため、溶媒選択の最適化につながる。

 今後、反応開発や触媒開発と連携して、開発した評価方法の検証実験を行う。さらに、反応溶媒だけでなく抽出溶媒など適用範囲を広げていき、反応開発や触媒開発の指針の一つとして貢献できる技術開発に取り組む。<産業技術総合研究所(産総研)>
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