書名:宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎―
著者:村山 斉
発行所:幻冬舎
発行日:2010年9月30日第1刷発行
目次:序章 ものすごく小さくて大きな世界
宇宙という書物は数学の言葉で書かれている
10の27乗、10のマイナス19乗の世界
世界は「ウロボロスの蛇」
第1章 宇宙は何でできているのか
リンゴと惑星は同じ法則で動いている
リンゴの皮の部分に浮かぶ国際宇宙ステーション
「4光時」の冥王星まで20年かかったボイジャー ほか
第2章 究極の素粒子を探せ!
皆既日食で証明されたアインシュタイン理論
なぜ見えない暗黒物質の「地図」がつくれるのか
遠くの宇宙を見るとは昔の宇宙を見ること ほか
第3章「4つの力」の謎を解く - 重力、電磁気力
重力、電磁気力、強い力、弱い力
力は粒子のキャッチボールで伝達されると考える
質量はエネルギーに変えられるという大発見 ほか
第4章 湯川理論から、小林・益川、南部理論へ - 強い力、弱い力
未知の粒子の重さまで予言していた湯川理論
湯川粒子はアンデス山頂で見つかった
新粒子発見ラッシュで研究者たちは大混乱 ほか
第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎
ゴールに近づいたと思ったらまた新たな謎
暗黒物質がなければ星も生命も生まれなかった
「超ひも理論」は夢の「大統一理論」を実現するか? ほか
著者の素粒子論を専門とする村山斉氏は、現在、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の機構長の要職に就いている。このカブリとは、米国カブリ財団の名称で、同財団の寄附による基金設立を受け、2012年4月より新たな名称で研究活動をスタートさせた。このKavli IPMU(カブリ・イプムー)は、最先端を行く数学者、理論物理学者、実験物理学者、天文学者からなる研究者のグループを形成している。
ここで不思議に思えるのは、数学はともかく、「物理学者=素粒子」と「天文学者=宇宙」とが同じ研究所で研究していることだ。素粒子とは極小の世界を研究することだし、一方宇宙は極大の世界を研究することで、この2者は両極端にいるはずであり、互いに机を並べて研究することはないはずなのだ。実はこの謎が、この村山 斉著「宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎―」(幻冬舎新書)のテーマそのものとなっている。
今我々が住む宇宙は、137億年前にビックバンによって生まれたが、そのスタートの時を追究していくと素粒子の研究に行き着くし、その後宇宙は膨張していったわけで、こうなると天文学なくして解明できない。「宇宙の起源を知ろうと思ったら、素粒子のことを理解しなければならない」と村山氏は説く。これはちょうどギリシャ神話に登場する、自分の尾を呑み込んでいる蛇である「ウロボロスの蛇」を思い起こさせる。
つまり、自然界の両極端にあるように見えながら、この2つは切っても切れない関係にあるのである。「いま起きている宇宙論の変化は、『天動説』から『地動説』への転換に匹敵するほどのインパクトがある」と言う村山氏が、最先端の素粒子論と宇宙論の2つを難しい数式を使わず、誰でもが理解できるように書き記したのが同書である。もうこれ以上易しく解説するのは不可能では、といった感じすら受けるほど丁寧に書かれた、最先端を走る科学者自身による本である。(STR:勝 未来)