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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「巨大地震が再び日本を襲う」(木村政昭著/宝島社)

2014-09-02 17:19:59 |    宇宙・地球

書名:巨大地震が再び日本を襲う!~首都圏に迫る大津波と富士山噴火のXデー~

著者:木村政昭

発行:宝島社

目次:第1章 活動期に入った環太平洋の超巨大地震
     第2章 超巨大地震は予知できる
    第3章 これから予想される巨大地震リスク その1
    第4章 これから予想される巨大地震リスク その2

 1995年に発生した「阪神・淡路島大震災」の地震規模はM7.3で、6400強の人々の命が奪われた。その後、2011年に発生した「東日本大震災」では、死者・行方不明者の数は1万8000人強に達した。そして、現在、東南海トラフによる巨大地震の発生の危険性が叫ばれ、また、首都直下型大地震の発生の恐れもあると言われる。このように、日本は、世界でもまれな地震大国であり、首都が大地震の危機に晒されているケースは、近代国家では他に例がない。物理学者の寺田寅彦は、「天災は忘れたころにやってくる」という名言を残したが、どうもこれは情報化社会の現在においては、少々違和感を感じざるを得ない。関東大震災のころは、通信網がまだ未発達で、地震が発生して暫くたっても「どうも東京で大地震が起こったらしい」といった程度の情報しかなかったようだ。ところが現在は、リアルタイムで映像が世界中を駆け巡ってしまう。「天災は忘れたころにやってくる」どころか、現代の我々は、「阪神・淡路島大震災」や「東日本大震災」の映像が、今でも脳裏から離れない。そこで、せめて地震予知はできないか、という一縷の望みにすがりた思うが誰にでもある。

 日本の地震予知は、1960年代から開始された。当初は、機器を導入して地震や地殻変動をすれば前兆現象を捉えられる筈だという考えで、毎年、毎年巨額の投資が行われてきた。しかし、当初の楽観的予測は外れ、一向に地震予知の成果は、今に至るまで上がって来てはいない。一時は、ナマズの研究にも地震予知の予算が付けられたというのであるから、如何に手詰まりに陥ったかが分かる。それでも「東日本大震災」が起きる前までは、「地震予知は可能」という強気の姿勢は、日本政府や研究機関の主流を占めていた。ところが「東日本大震災」発生以後、大きく方向転換し、「地震予知は不可能」という考えが主流占めるに至っているという。この流れに敢然と反旗を翻しているのが、「巨大地震が再び日本を襲う!~首都圏に迫る大津波と富士山噴火のXデー~」(宝島社)の著者の木村政昭氏である。同氏は、「東日本大震災」後、「むしろ地震予知の可能性は増したと感じている」と言う。

 木村氏がその根拠一つとして挙げるのが、自身が行った「東日本大震災」の予知がぴたりと当たった事実である。同氏は、2007年6月に沖縄県宜野湾市で開かれた国際会議「太平洋学術会議」において、「2010年頃までに東北日本沖で、マグニチュード(M)8を超える巨大地震が発生する可能性がある」という説を発表している。正にこれはその後発生した「東日本大震災」の予知そのものだ。「当時は、そのような超巨大な地震が近い将来、日本の周辺で発生する可能性があると具体的な根拠を基に主張する地震研究者は全くおらず、2007年の時点では、気象庁はM9以上の地震が日本の周辺で発生し得るメカニズムを定義することすらしていなかった」と、著者である木村政昭氏は、同著のまえがきで書いている。「巨大地震が再び日本を襲う!~首都圏に迫る大津波と富士山噴火のXデー~」の第1章においては、活動期に入った環太平洋の超巨大地震の実例が生々しく紹介されている。「東日本大震災」発生以前は、環太平洋と言われると何か遠くの国で起こったことにしか捉えられなかったが、「東日本大震災」発生後は、もうそんな悠長なことは言っていられないのだ。

 木村政昭氏は、地震予知の理論的根拠として「地震の目」と「火山噴火」を挙げている。そして、これらは、同書の「第2章 超巨大地震は予知できる」において詳しく紹介されている。「M6以上の大地震が発生していない空白域の中に、M6未満の中小地震が密集して起こる場所があるということだ。ただの空白域ではなく、空白域の中に中小地震密集ゾーンがある場合、そこに次の大地震が起きる」と木村氏は言う。つまりこれが木村氏が自ら命名した「地震の目」理論である。もう一つ木村氏が主張するのが「『火山噴火と地震の時・空関係』からも巨大地震の発生を予想できる」という「火山噴火」理論である。「主噴火の年代から一定方向に時系列を持つ傾向が認められる。そして、古い年代の方向をたどっていくと、その延長に大地震の震央が位置するという関係が見出せる」と言うのだ。同書のあとがきで、筆者は「『東海地震』『3連動地震』『首都直下地震』が今後30年以内に発生する可能性は低い」と書いている。木村氏自身が認めているように、同氏の見解は、現在の政府、研究機関の見方からすると“異端の説”であることは事実であるかもしれない。しかし、地震予知に関しては、現在のところ定説がないだけに、同氏の主張も今後検討しなければなるまい。何せ、木村氏は「東日本大震災」を予知した実績があるのだから。筆者の木村政昭氏は、海洋地震学者。現在、琉球大学名誉教授、NPO法人海洋遺跡研究会理事長。1982年度朝日学術奨励賞受賞、1986年度沖縄研究奨励賞受賞。(勝 未来)


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