書名:誰が本当の発明者か
著者:志村幸雄
発行所:講談社
発行日:2006年8月20日第1刷発行
目次:序章 なぜ発明者の特定がむずかしいのか
第1章 発明か改良かをめぐる攻防
蒸気機関 先行発明を超えたワットの彗眼
自動車 ドイツvsフランスの意地の張り合い ほか
第2章 特許裁判が分けた明暗
映画 エジソンの権謀術策
電話 脅かされたベルの偉業 ほか
第3章 巨人の影に泣いた男たち
水力紡績機 アークライトは「発明の盗人」か
白熱電球 発明王に飲み込まれたスワンの独創 ほか
第4章 国の威信をかけた先陣争い
無線電信 西のマルコーニvs東のポポフ
アドレナリン 濡れ衣を着せられた高嶺譲吉 ほか
第5章 並び立つ発明者
コンピューター 歴史的大発明に水を差す先行発明
トランジスター 天才ショックレーの大ミステーク ほか
近年は、特許制度の普及で発明者を特定することは比較的容易だが、まだ特許制度が普及していなかった時代においては、発明者が誰であるかを特定することは、そう簡単なことではない。映画は誰が発明したのか?電話は誰が発明したのか?と改めて問われると意外に返答に窮してしまう。
特許制度が完備した最近ではどうかというと、中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授が、青色発光ダイオードの発明で、日亜化学工業を相手に訴訟を起こした事件はまだ記憶に新しい。ことほど左様、現代においても誰が真の発明者であるかを特定するのは簡単ではない。
そもそも発明とは何かを定義しないと話が前に進まない。我々は学校教育を受けてきたわけであるが、その学校教育の内容はというと、先人の“発明”のエキスを吸収しているのである。つまり模倣である。有名な葛飾北斎の富岳三十六景の神奈川沖之波裏は、同時代の名工であった波の伊八の行元寺の欄間の構図と瓜二つである。葛飾北斎はこの欄間を見ていたとも言われている。
葛飾北斎は、この絵で世界的に名を知られたが、波の伊八の名を知る人は日本人でもそう多くはない。つまり、模倣と独創(発明)は紙一重のところにあるといって過言でなかろう。志村幸雄著「誰が本当の発明者か」(ブルーバックス)は、そんな微妙な発明20例について、その背景を解明しており、改めて発明とは何かを考えさせられる。(勝 未来)