はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

分蜂

2020-06-01 18:13:45 | はがき随筆
 「お父さん、蜂!」。カミさんの声で庭に出る。すさまじい羽音でミツバチの群れが乱れ飛ぶ。庭木に止まると、たちまち乳牛のおっぱいの大きさに垂れた。
 「分蜂や」。幼い頃一度見たミツバチの巣別れだ。昔、蜜蜂を飼っていた父は巣箱を襲ったスズメバチに立ち向かい、刺された腕が丸太のように腫れた。以来私は蜂が怖い。
 「お父さん、これダメ?」。カミさんが出した殺虫スプレーを恐る恐るシュー。すると空高く長い帯となって飛び去った。
 「あほう、蜜蜂殺してどないする気や」。懐かしい父の声が胸をチクリ。
 宮崎市 柏木正樹(71) 2020/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載

奇跡の目

2020-06-01 18:00:42 | はがき随筆
 数年前、知人の畑の傍で四葉のクローバーを摘ませてもらったことがあった。誰でもすぐに幾つも見つけられるほど、そこには四葉が多かった。
 すると特殊能力を得たのか、その年は挟んだ手帳のページがいっぱいになるくらい、四葉を見つけられるようになった。四葉の姿が目に飛び込んできた。
 自粛生活の中、近所を散歩していて人気のない公園に立ち寄った。姿勢を低くして叢に目を落とす。見えるのは三葉ばかりだ。あの年以来、四葉は見つからない。最初に一本見つけたら。もう一度あの奇跡の目が甦るような気がしているのだが。
 熊本市中央区 岩木康子(54) 2020/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載