はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

誕生日に

2011-04-21 22:19:39 | はがき随筆
 夫を送り出し新聞を広げる。覚えのある書き出しに驚く。ボツになったとばかり思っていた文章に、この日お目にかかるとは。なんて、うれしいんだろう。
 古里の母に電話する。この日は必ず声を聞く。彼女が28歳を迎えた日に産声をあげた私。
 元気で暮らしていることに、ただただ感謝するのみです。
 お嫁さんからのプレゼント。
 友からのメール。
 ささやかな夕餉。
 みんな、ありがとう。
 心が痛むニュースが続く中、今年は特に思うこと。来年も無事に、この日が迎えられますようにと。
  鹿児島市 浜地恵美子 2011/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝を込めて

2011-04-21 22:05:34 | はがき随筆


 4月1日、私は鹿児島空港から屋久島へと飛び立った。飛行機で約35分、世界遺産の島、屋久島である。
 飛行機の中で、花束を抱えた私に、スチュワーデスさんが声をかけてくださった。
 「きれいな花束ですね。屋久島に赴任されるんですか。新しい所でも頑張ってください」
 そのさりげない言葉に、思わず、ほろりと涙がこぼれた。
 見送ってくださった人たち、迎えてくださった人たち、沢山の人たちの温かさや優しさに支えられて生きている。愛と希望を乗せて──。
  屋久島町 山岡淳子 2011/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載
画像はフォトライブラリより

命名の儀式

2011-04-21 21:57:28 | はがき随筆
 「濃霧で運行中止」の掲示板。2人は隣接の千歳駅まで空港ロビーから走った。釧路行き特急は空港から流れ込んだ乗客で、すし詰め。夜行から帰った翌日、妻が緊急入院した。授かった命の灯が消えた。小さな胎児だが、命の尊さを知った瞬間であった。深い悲しみの淵にある妻に掛ける言葉を探し出せないまま時間が流れた。ふと‘亡き児への愛情’が期せずしてひとりでに立ち昇ってきた。人は必ず終焉を迎えるが、吾子には輝く未来がありますように。今度コウノトリが運んできた赤ちゃんは「未有」と名付けよう。長女は23歳の春を謳歌中。
  鹿児島市 吉松幸夫 2011/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

集金袋の氏名

2011-04-18 16:43:13 | はがき随筆
 新学期になり、新しい制服姿が新鮮だ。私塾の生徒も4月から急に成長した感じ。旧小3の女の子が集金袋の氏名を「かわいい○○ちゃんと書いて」。
 この注文は、長年塾をした私が受けた初めての言葉。自負するだけあり、だれが見ても同様だ。気軽に書くと満足した笑顔になる。でも別の生徒には悪いと思案する。小4になり一言。「かわいいは卒業ね」。
 すると、あっさり「ハイ」と納得。あぁ、この子が成長したことは私も年を重ねたことだ。毎日の流れの早さ、時計の針の動きを気にし今日なすべきことをしっかりしようと覚悟する。
  肝付町 鳥取部京子 2011/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載

桜島も一服

2011-04-17 17:57:41 | はがき随筆




 1カ月ぶりの鹿児島。今回も鹿大病院の診察だが、都会の空気を吸い込む。そして、見るたびに違う表情を見せる桜島。今回は小爆発を続けていて、気がついたら、噴き上げた噴煙が、タバコの煙で作った輪のような形になっていた。
 帰りの高速船の中、薩摩富士といわれる開聞岳を撮ろうと2階席をとった。いつもは種子島から、小さくかすむ姿しか見ることができない開聞岳。窓越しではあったが、なだらかな稜線がはっきり分かる写真になったので、一応は満足。船上からでなければ狙えない写真を、もっと撮りたいと欲が出た。
  西之表市 武田静瞭 2011/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載  写真は武田さん提供

チャリティー

2011-04-16 23:30:26 | ペン&ぺん
 盗みに良いも悪いもない。だが「それは、ないやろ」という窃盗容疑者が逮捕された。日置市内の寺にあった東日本大震災の義援金箱を失敬したという。
 事実ならば、他人の善意、チャリティー精神を傷つける行為だ。あってはならないというよりも、やるせない。
   ◇
 英単語のチャリティー(Charity)は、慈善、施し、思いやりなどと訳す。ただし、時には反語的に、皮肉をこめて使われることもあるらしい。
 例えば「コールド・アズ・チャリティー」。直訳すれば、チャリティーみたいに冷たくて。ではなく「うわべだけの慈善行為のように冷淡で、お座なりな」という意味だとか。そう英和辞典に書いてある。
 「チャリティー・ビギンズ・アット・ホーム」という言葉もある。慈しみの対象は、まずは家庭や身内。そんな意味で使う。だが、寄付や奉仕作業を断る口実や言い訳に用いる常套句(じょうとうく)でもあるという。
 チャリティーって、何やら複雑。ややこしくもある。
   ◇
 コンサートやバザー、スポーツのイベント、展示会、即売会など県内各地の催し物で、東日本大震災の募金箱が置かれる。行事を自粛するよりも、チャリティ-行事として開催し、人を集めて義援金を募る方が良い。心を萎縮させる自粛ムードが広がるよりは、よほど良いはずだ。
 もちろん、募金箱を盗まれたくないし、善意を他人に奪われたくない。それに形ばかりで心がこもらぬ寄付もイヤだ。善意の押し売りは好かれない。一律に寄付を出すことを強制されることにも違和感がある。
 それぞれが考える。それぞれが自分にできることをして、何かの役に立つ。
 そんなチャリティーを今、期待したい。
  鹿児島支局長 馬原浩 2011/4/16 毎日新聞掲載

まめに動き体調改善

2011-04-16 19:38:12 | 岩国エッセイサロンより
2011年4月15日 (金)

  岩国市 会 員   山本 一

現役時代と大きく変わったことに医者通いがある。耳鼻科、眼科、歯科、内科、整形外科、皮膚科など、これを病名で数え上げるとため息が出る。

致命的ではないが、黄色信号。いわゆる境界域である。ところが、最近ようやく峠を越えてきた気配だ。

医師の治療の成果は勿論だが、現役時代と大きく変わった生活態度のおかげだと思う。

食事に気をつけている他に、毎日1万歩目標と1日3回のスローステップを継続している。釣り、川柳、エッセーなど、趣味ざんまいでストレスからも逃げている。

だが、一番大きく変ったことは、日常生活で積極的に体を動かすようになったことだ。

自宅でも1階と2階の間を何度も行き来する。徒歩でのゴミ捨てや買い物もすすんで引き受ける。

歩く時は川柳を作句しながら、スローステップはテレビを見ながらだ。毎日の生活も、中期、年、月、週、日計画を、日々手帳で管理している。

「昔とちっとも変わらない」と妻は言う。効率一辺倒だった現役時代の癖はなかなか消えない。

(2011.04.15 中国新聞「広場」掲載)岩國エッセイサロンより転載




















着物の日

2011-04-16 19:27:33 | はがき随筆
 着物が、たんすの中であくびするという話を聞きますが、近ごろ、その夢を見るのです。
 「着物を着る日を決めようかね。このままじゃ、可哀そうよ」
 20代から和裁ひとすじの妹が母に会いに来る水曜日を、着物の日と決めました。
 「この袷を単衣にしてあげるから解いてね」
 「お願いしようかしら」
 ボタンが咲くころに合う薄い黄緑に、日本庭園が描かれた小紋を解いています。
 私も昔、和裁を習ったので、なんとか縫えそうですが、肩が痛くて。甘えることにします。
  阿久根市 別枝由井 2011/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の桜

2011-04-16 19:21:01 | はがき随筆
 お花見は新幹線さくらで名園後楽園と決めていた。倉敷の美術館にも足を延ばし、瀬戸内の魚で、地酒をなどと夢膨らませる。限られた花の時期。憂いのないように予約を取り、花便りを楽しみに待つ。しかし未曾有の天災が東日本を襲うなんて誰が想像したろうか。行こうか行くまいか迷う日が続く。
 テレビに映し出される惨状を目の当たりにするたび自粛へと傾斜する心は家内も同じ。解約料は仕方ないとして、戻った現金を義援金に送れば、心は花見気分。我が家の桜。今日はひときわ華やいで見え、それはそれで思いでの桜になるだろう。
  志布志市 若宮庸成 2011/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆三月度入選

2011-04-16 18:53:38 | 受賞作品
 はがき随筆3月度の入選作品が決まりました。

▽出水市知識町、年神貞子さん(74)の「ナマコ」(1日)
▽薩摩川内市宮里町、田中由利子さん(69)の「トムとジェリー」(9日)

▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん(71)の「ATMのぼやき」(2日)

──の3点です。

3月11日の大災害以後には、その感想を綴った文章が増えるかとも思っていましたが、そうではありませんでした。おそらく多くの人が言葉を失ったのではないでしょうか。それにしても、テレビで聞く政治家や評論家の言葉の非力さには、「かまどの下に燃える茨の音」(伝道の書)のような虚しさを感じます。
 年神貞子さんの「ナマコ」は、海鼠釉薬の色あいと本物のナマコの色の違いに、はじはがっかりしたが、調理したら美しいナマコ色が出てきたという驚きが記されています。日常の瑣事への観察の細かさが優れた文章にしています。
 田中由利子さんの「トムとジェリー」は、車道の真ん中でのネコとネズミの追っかけっこを、アニメの「トムとジェリー」に見立てた文章です。2匹の小動物の動きが的確に表現されています。
 清田文雄さんの「ATMのぼやき」は、自分の、ATMを使っての払込書の挿入ミスを、機械の視点からからかった文章です。短い文章のなかにも、客の服装や駆け付けた銀行員の様子などに、波瀾を感じさせる仕掛けのある文章です。
 入選作の他に、3編を紹介します。
 鹿児島市魚見町、高橋誠さん(60)の「電子書籍」(12日)は、娘さんから還暦祝いに読み取り機を贈られた内容です。何かと批判の多い電子書籍ですが、意外と老人には好評のようです。問題は内容の質と量ですね。肝付町吉井三男さん(69)の「エコ対策」(19日)は、ご夫婦で揚げ足取りをしながら、省エネに励んでおいでの様子が、軽妙な会話仕立ての文章で綴られています。霧島市溝辺町、秋峯いくよさん(70)の「卒業旅行」(26日)は、お孫さんたちが卒業旅行に鹿児島に来て、自然と温泉と美食とを満喫して帰って行った。ここまでは普通の近況報告ですが、最後にその日「東日本大震災を知った」という一文を加えることで、まったく別の印象をもつ文章になっています。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

みんなが祈り寄り添っている

2011-04-16 18:00:15 | 毎日ペンクラブ鹿児島
 聞こえてくる。
 「ぼくは野球選手になりたかったんだ」
 「わたしケーキ屋さんになりたかったの」
 「あの子が夢を持って生きられるだろうか」 
 「年老いた両親はどうなるのだろうか」
 たくさんの人の夢を、東日本大震災による大津波があっという間に奪ったのだから、たくさんの夢を取り戻さなければ。
 たくさんの人が気がかりなことを残していったのだから、さくさんの気がかりを取り除かなければ。
 人間の気高さを輝かせながら大津波にのまれたあなたを忘れないから。
 悲しみに耐え、人間の美しさを失わずに生きているあなたを忘れないから。
 あなたの気高さと美しさが、日本中そして世界中を清め、輝かせているから。
 みなんが祈り、寄り添っているから、あなたは1人じゃないよ。
  鹿屋市 伊地知咲子 2011/4/15 毎日新聞 「みんなの広場」より

大震災に思う

2011-04-16 17:47:04 | 女の気持ち/男の気持ち
 長女が生まれたのは昭和34年であった。私は母子家族で母は勤めていたから実家を頼るわけにはゆかない。公務員の大方が間借りのスタートで、一つの井戸を3家族で使っていた。出産後、夫の同僚の奥さんたちは娘に産湯を使わせ、おしめをたらいで洗濯され、総菜も差し入れてくだった。あのときの人の情けは終生忘れることはないだろう。
 その年、正田美智子様と皇太子殿下のご成婚が報じられた。皇室という閉ざされた世界の壁を、熱い愛情でこじ開けて結ばれたお二人の姿に、私は強く心を揺さぶられた。
 どん底まで落ちてしまった日本。これまでの日本とは別の新しい国になるのだ。人々は明るい展望をお二人のご成婚に感じ取った。
 あれから半世紀。車、テレビ、冷蔵庫、パソコンなど電化製品に囲まれた便利な暮らしである。人っ子1人通らない団地に立ち、ふっとえたいの知れないさみしさをおぼえることがあった。そんな時団地でスタートしたボランティアグループから「一人暮らしの集い」の発起人に誘われた。私は二つ返事で引き受けた。おひとりさま同士の絆が深まっていくのが楽しみである。
 この度の大震災に、敗戦後のどん底を重ねる私と同じ世代は多かろう。昨年吹き荒れた「無縁社会」と反対の絆、助け合い、が合い言葉になった震災。きっと敗戦後と同じように試練を乗り切れると信じている。
  宮崎市 松尾順子 2011/4/15 毎日新聞の気持ち欄掲載

和やか

2011-04-16 17:41:34 | はがき随筆
 ボランティアで植樹祭に参加した。案内人を先頭に現場を目指すが、途中2回引き返した。
 川向かいの道を行こうということになった。幸運にも川は水量がわずかで中州もある。誰からともなく石を投げ込み、橋が完成。全員渡ることができた。
 頼りの案内人もボランティアで土地勘に乏しい。でも、不平や責める声はない。川に入り、石を積んだ長靴姿の男性は「このために長靴を履いてきたんです」とユーモアで笑いをとる。この和やかな雰囲気……。
 この場に居合わせたことをうれしく思う。次回の参加も誓った。
  垂水市 竹之内政子 2011/4/14 毎日新聞鹿児島版掲載

小さい復興

2011-04-16 17:27:43 | 女の気持ち/男の気持ち
 谷向こうの所々に山ザクラが浮かび、川土手にはツクシやスミレも顔をのぞかせた。この冬の大雪で枝折れした庭木にも、新芽のツブツブがいっぱいふきだしている。
 やぁ、もうすっかり春なんだなぁ。次々起こるできごとに、気を取られている間に。
 青空を仰ぎ、深呼吸すれば、みずみずしい風の中に、懐かしい原始のにおいがする。その風に乗って、ツバメのつーちゃんズがやってきた。去年より1週間ほど早い。
 築7年。玄関脇の巣は年ごとに増築され、どんどん豪邸になっていった。テンコ盛りのヒナが巣からこぼれ落ちる悲劇もなくなった。それが昨年、ツーちゃんズが南の島へ帰った後、正体不明のチョイワル鳥の仕業で壊されてしまったのだ。土中深くから掘り出された欠け茶碗のように。
 1年ぶりの我が家の損壊を目の当たりにして、ツーちゃんズはどんなにショックをうけたことだろう。去年と同一カップルだとしたら、の話だが。
 夜、デコボコの斜めの縁に足をかけ、寄り添って眠っていた。朝見ると、もういなかった。やっぱり無理だったか……。と、その時、1羽がツイーっと戻ってきた。口に泥の玉をくわえている。入れ替わるようにもう1羽も。
 黙々とすれ違い、泥や藁を運ぶ二羽の翼。青空が滲んで遠ざかる。こんなに小さい小さい復興の営みにさえもジンとたたずむ春。
  鹿児島市 青木千鶴 2011/4/13 毎日新聞の気持ち欄掲載

深まる謎

2011-04-16 17:12:58 | はがき随筆
 人間には体内時計があり、年を取ると夜眠れなくなったり、トイレや3度の食事が不規則になるなど、体内で時を刻む時計が狂い出すと専門医は指摘。
 私は眠れないある夜、昨年2月の日記と今年を見比べ、不思議なことに気がついた。
 それは理髪と図書館に行った日付が同じ。さらなる驚きは、花粉症で薬を飲み始めた2月25日の日付まで同じであった。
 単なる偶然、いや我が体内時計は狂うどころか正確に……。専門医の指摘が狂いだしているのか? 体験日付の一致と専門医の体内時計の関連性は、いまだ心の中でくすぶっている。
  鹿児島市 鵜家育男 2011/4/13 毎日新聞鹿児島版掲載