はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

カミさんは神様

2011-04-23 21:32:38 | 女の気持ち/男の気持ち
 「昨夜はよく眠れた?」
 朝食がすんでパソコンの受信メッセージを検索している時、カミさんが声をかけてきた。ここのところ2人とも寝つきが悪く、午前2時、3時になってもあっへゴロゴロこっちへゴロゴロと寝返りを打っている老夫婦なのである。午前2時、3時といっても別に驚くにはあたらない。というのも寝床に入るのが午前1時ごろだから。チャンネル権を握るカミさんの見たいテレビ番組の放送時間が遅いため、寝るのが遅くなってしまうのである。そして起床は午前9時前後。
 「そういえば、昨夜は珍しくよく眠れたなあ。トイレにも2度しか起きなかったし」
そう答えて私はパソコンに向き直った。私としては一応カミさんの質問に答えたし、そこで話は済んだと考えたのであるが、カミさんはまだ私の顔を見つめており、何か言いたそうな様子をしている。その視線に気がついて、カミさんに向きを戻した。
 「だからさあ、アタシはどうだったのって聞こうよ」 
 そこで私は「どうだったの」とカミさんの言った言葉を繰り返した。普通なら「催促してから聞かれたって面白くない」となるところだろうが、カミさんは違う。
 「私もよく眠れたのよ、今朝はすっきりした気分よ」と、笑顔で答えるのである。そんなカミさんの様子を見て私は、次は催促される前に聞かなくてはと思うのであった。
  鹿児島県西之表市 武田静瞭 2011/4/23 毎日新聞の気持ち欄掲載

東日本大震災

2011-04-23 21:25:33 | はがき随筆
 3月11日から1カ月余りが過ぎた。その日スーパーで買い物をしていたら「東北で、すごい地震があったらしいよ」と息子が知られてくれた。地震津波原発の爪痕がテレビでまざまざと映し出された。どうすることもできない人間の非力さにしばらくの間、言葉を失い、気持ちが上滑りして変な精神状態がつづいた。それでも桜の季節、今年ほど桜がきれいだと思ったことはない。4月に入り、あちこちで入社式の凛々しい若者を見た時「これからこの人たちがこの国を背負ってくれるんだ!」とエールを送る反面、自分がもう若くないことを思い知った。
 伊佐市 今村照子 2011/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

エジプト革命の中で

2011-04-23 21:10:21 | 女の気持ち/男の気持ち
 2カ月前、私は旅行者として反政府デモや争乱が続くエジプトにいた。アブシンバルをはじめ南部の古代遺跡のスケールに驚き、感動の幾日かを過ごした後、カイロに着いた。日本からのメールでタハリール広場のデモのことを少しは知っていたが、夜間外出禁止令で空港に足止めになるとは思ってもいなかった。真夜中、空港近くのホテルに移動できたものの、室外に出ることを禁じられたりもした。
 旅行中、ガイドをしてくれたムハマドさんは自宅が暴徒の略奪にあい、不安な日々を過ごす家族のことを心配しながらも最後まで私たちのサポートに徹してくれた。その姿に私たちは何度も胸が詰まる思いをした。 
 ホテルに缶詰になって3日目の朝、ここも危険ということで、急遽空港に避難。出国を待つ人であふれるロビーでミニ難民となった。
 独裁政権に終止符は打たれた。国民が参加する政治に変わりつつあると聞く。しかしムハマドさんをはじめ観光業を生業とする人々には厳しい日々がこれからも続いていくだろう。
 東日本を襲った巨大地震、津波そして追い打ちをかける原発事故。被災地の惨状に胸を痛める毎日に、ホテルで投函を依頼したことさえ忘れていた自分宛の絵はがきが届いた。
 あわためてゆったり流れるナイル川、そしてカイロで遭遇した数日間を思い出した。
  北九州市八幡西区 只松たより 211/4/22 毎日新聞の気持ち欄掲載

金比羅まつり

2011-04-23 21:03:03 | はがき随筆
 草木萌え出る4月16日、集落センターで旧暦3月10日まつりがあった。
この伝統行事は海の祭りとして野外に出て寒い冬から開放された喜びを老若男女が楽しんだものです。
 今は第10回村づくり推進委員会のもとで実施されている。大フロアに各自、重箱のご馳走を広げ、談笑の中で昔を語り、回顧し将来を論じる。同じ集落に住みながら今の車社会では日ごろ多忙で、住民同士接する機会がない状態です。
 歌や踊り、抽選で賞品受賞。小生4等の海苔。爆笑の一日、ありがとう。
  阿久根市 松永修行 2011/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

「つつましく」

2011-04-23 19:22:18 | 岩国エッセイサロンより
2011年4月22日 (金)
岩国市   会員   吉岡 賢一

一瞬にしてすべてを奪ったあの大震災。避難生活の不自由さや苦しさを目にする時、我が家の生活もすべての面で細かく見直しをしていることに気付く。  

多くを買い込んで冷蔵庫をフル稼働させる電力の無駄遣いをやめた。ガソリンは満タンをやめ、車を軽くする。出掛ける回数も極力減らし、一度により多くの用件を済ませる。

これまで特に気にしなかったこんなささいなことが、我が国再生や復興の原動力につながると思えば長続きがする。忘れかけていた「つつましく生きる」という生活。気持ちまでまろやかにしてくれる。  
 (2011.04.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

「郷愁の香り」

2011-04-23 19:19:30 | 岩国エッセイサロンより
2011年4月20日 (水)
    岩国市  会 員   横山 恵子

仏壇のスイセンがほのかに香ってきた。幼いころを思い出させる香りだ。私はおてんばだった。あれは忘れもしない6歳の春。2歳下の妹を連れ、友人たちと川に置いてある船に出入りして遊んでいた。突然「ドボーン」という音に驚いて振り返ると岸に立っていた妹が川の中に。

私は泣き叫びながら走り、浮き上がってきた妹の手を思いっ切り引っ張った。手をつかんだ瞬間「助かった」と心の中で叫んだ。重い足取りで帰る途中、母に会った。びしょぬれの妹を背負った母の後をとぼとぼと……。ほろ苦い光景が香りと共によみがえった。
  (2011.04.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載