はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2008-08-22 23:11:20 | はがき随筆
夏の特集(中)-3
 午後の太陽がむんむんと取り返す団地の夏。私は汗をふきふき家路をたどっていた。もうろうとした頭は我が家の冷蔵庫の中を探っている。「冷たい物は何もないなあ。どこかでアイスを買って帰ろう」。その時だった。前方で「ウワーッ!」と子どもたちの歓声があがった。何だろうと近づいて見ると、子どもたちが「キャー、キャー」。水浴びをしていた。15人はいる。こぢんまりした保育園の片隅の、即製プールだった。男の先生も裸で真ん中に立ち、こけた子供の手を引きながら一緒に遊んでいた。サーッと一陣の涼しい風がよぎった。
   鹿児島市 高野幸祐(75) 2008/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

涼を求めて

2008-08-22 22:53:56 | はがき随筆
夏の特集(中)-2
 温暖化のせいか今年の夏はいつもの年より暑いように思う。あるいはいつもと同じなのかもしれないが。冷房のなかった昔は道路に涼み台を出して涼んだものだが、車が多くて今はそれもできない。
 私は早寝早起きが日課。8時半にクーラーをつけて9時就寝。そして4時に起床。新聞を読んで投稿のはがきを書き、5時過ぎ、車で海岸に向かう。
 防波堤や渚を歩いて涼を取る。日が昇る前の夜明けの海辺は、風がさわやかで気持ちがいい。それでも歩いていると少し汗ばむ。暑い夏、青い海を見ながら涼を取って、その日の仕事に備える。
   志布志市 小村豊一(82) 2008/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

私泳げません

2008-08-22 22:46:29 | はがき随筆
夏の特集(中)-1
 夏は家の中にいても、ただただ暑い。世の大人も子供も一服の涼を求めて山へ海へと繰り出す。だが私は海がイケナイ。平たく言えば物心ついてから私は水が怖いのです。小1からプールになじめず、還暦を迎えそうな年になっても水に近づきたくない。異性に興味を持ち始めた中学生のころ水泳の授業は悲惨を極め、まさに背筋が凍った。母親は「きっと前世が牛で川でおぼれ死んだんだね」と薄気味悪いことを言った。海軍上がりの父は「情けない」と言ってスパルタ式特訓もしたが、成果は上がらなかった。人には言えない、私だけの涼しい夏の話である。
   霧島市 久野茂樹(59) 2008/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

私の涼!これだ

2008-08-22 17:58:07 | はがき随筆
夏の特集(上)-4
 猛暑日が続きセミ時雨の大合唱も元気がなく、私はアジの干物にような気分になっていた。
 そのうだるような暑さを吹き飛ばしてくれるのが北京五輪。新聞報道で多くの知識を得、競技の各種目が興味深い。話題の高速水着で、北島選手の2大会連続金メダルなるか。五輪最後の野球、星野ジャパン念願の金? 16年ぶりに出場を決めた男子バレー……などすべての競技に期待を寄せる。
 日本選手の頑張りで興味覚めやらぬ日々が続き、連日、鳥肌が立ちそうだ。この活躍はきっと私に涼しい風を吹き込んでくれるに違いない。
   鹿児島市 鵜家育男(63) 2008/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

奥深い人工道

2008-08-22 17:50:07 | はがき随筆
夏の特集(上)-3
 自宅より200㍍離れた場所に布引の滝。散歩コースで滝の入り口まではよく通る。
 短い上り坂に5軒の民家。いつもきれいな花が咲き、まさに平和のシンボル。滝の登り口は木製の人工階段で役場観光課の努力が見える。
 息をせっせと吐きながら登ると青白い枦山池。展望台で姶良町の一部を見ながら小休止する。県内でも森林浴の出来る地区は少ない。森林を奥深く前進すると突き当たりは布引の滝。掲示された滝の説明を読んでいるとなるほどと思うことも多い。水源は吉野台地より流れる。まさに家宝の滝だ。
   姶良町 谷山 潔(81) 2008/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

夏だあ

2008-08-22 17:21:23 | はがき随筆
夏の特集(上)-2
 ジジジジジージジジジジー。「ここにいるよ。生きているよ」と鳴いているように聞こえるセミの声。
 空を見上げる。真っ青な空、まぶしい太陽の光。洗濯物もすぐ乾く。畑には大きく育った夏野菜。お日様に光をもらったナスがひときわキラキラ輝いている。
 ジュルジュル、したたり落ちる汗。ああ、暑い。本当に夏だ。
 「チリチリチリリン」
 風鈴の音と共に、さわやかな涼しい風が吹き込む。夏の風は、本当にありがたい。厳しい暑さも何とか乗り越えられそうな気がする。平和を心に刻みながら。
   出水市 山岡淳子(50) 2008/08/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ブールが一番

2008-08-22 17:10:36 | はがき随筆
夏の特集(上)-1
 午後4時。きょうも熱くてたまらない。そうだ、涼みに出かけようと、ここでしりごみしない。プールへ。徒歩5分、なんと近い。まるでわが家のプールと自負しているゆえんである。
 半分は日陰になった屋内プールで、歩いたり泳ぎの練習らしきものをする。子どもたちの泳ぎをかいくぐって1時間、水の中のさわやかさに加えて体のしんまで冷えてくる。帰宅後の我が家の蒸し暑さを忘れさせてくれる。
 ほどよい空腹と清涼感で、その日の夕食のおいしいことといえば……。クーラー嫌いの私流の、ささやかな涼み方である。
   霧島市 口町円子(68) 2008/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝知らずの妻

2008-08-20 20:18:26 | はがき随筆
 夫と口げんかをした。他人様からすれば犬も食わないささいなことだが当人同士は必死だ。
 今回は、私が同じことを繰り返し言って、うるさいと。折しも昼ご飯前。私は心でほえた。「自分の分だけ作る。あんたが何を食べようと知らないよ」
 しかし、いざ台所に立つと、切り替えの早さが口に出て、隣室の夫に聞いてしまった。
 「私は納豆チャーハンを作って食べるけど、あんたはどうする?」「うん、おれも食べていいよ」
 静かな答えが返ってきた。
 私はほくそ笑み、ネギを刻む包丁の音を高くした。
   いちき串木野市 奥吉志代子(60) 2008/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

みつばちさん

2008-08-19 21:54:05 | はがき随筆
 本欄に懐かしい人の名前を見つけ、遠い昔を思い出した。
 小中学校時代を過ごした町では毎年、子供たちの文集「みつばち」が発行されていた。別の学校の1学年上のTさんは、よく作文などが載っていて、しかも特選である「みつばち賞」の常連だったと記憶している。
 同じ高校、大学と進み、初対面は私が入学した時の歓迎コンパ。私は当然「みつばち」のことを話題にした。
 卒業後、全く違う仕事についたが、知り合いを通じ消息が伝わる。今春、少し早めに仕事をリタイアされたらしい。「はがき随筆」の先輩復活でもある。
 鹿児島市 本山るみ子(55) 2008/8/19 毎日新聞鹿児島版掲載

充実の7週間

2008-08-19 21:47:16 | はがき随筆
 7週間の国語教師。充実した日々だった。朝7時半出勤。朝刊の切り抜きを掲示する。生徒の感動の目を育てる一役。日々の心身の成長は大きいので、教育の実践にごまかしも油断も出来ない。新鮮なものを提供する義務のある朝である。
 授業では、国語辞典の利用を勧める。電子辞書や広辞苑までも持参してくる。言語力向上の一助にと思う。大人以上に興味を持って辞典を引く。教材研究なしの授業はすぐにばれてしまう。土日返上の教材研究。学ばされる身の私である。生徒の意欲・関心・興味、少しずつ好転してゆく。
 出水市 岩田昭治(68) 2008/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

お渡り

2008-08-19 21:33:26 | はがき随筆
 86歳になった母と同居して4年になろうとしている。それに先立ち、同居のリスクを少しでも軽減しようと自宅をリフォームした。かくして母と妻と私の3人は個室を持つに至った。
 夕食以降はお互いのプライベートタイムだ。と言っても男の私は随分気を遣っている。9時就寝の母に一度は顔を出す。妻の所へはそれ以降となる。
 「篤姫」を見るようになってから「お渡りー」と言って部屋に入る。初め妻はクスクス笑っていた。近ごろは「忙しいのでご遠慮申す」と拒むこともあるではないか。これ御台所よ、そちから断るとはこれ違法なり。
   大口市 山室恒人(61) 2008/8/17 毎日新聞鹿児島版掲載

夕立

2008-08-19 21:14:46 | はがき随筆
 午後4時半、日が陰ったなと思ったら、雨が降り出した。南の島の夕立だ。乾ききった庭に大粒の雨が降り注ぐ。砂ぼこりのにおいが立ちのぼった。
 黒い雲が、形を変えながら遠ざかる。雨に打たれた庭の草花や木々が、急に元気づいたように見える。
 垣根の間から顔を出しているハマユウが存在を主張し、ヒトツバの枝にぶら下がっているコウモリランの葉からは水が滴り落ちる。サンダンカのだいだい色が鮮やかさを増した。
 リリリーン、リーン……。軒先の南蛮鉄の風鈴が、一段と高く鳴り響いた。
   西之表市 武田静瞭(71) 2008/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は武田さん提供

光るさなぎ

2008-08-15 21:07:23 | はがき随筆
 花期の過ぎたパンジー鉢の外縁にさなぎが下がっていた。焦げ茶色のさなぎの腹に小さな粒が5個ずつ2列に、キラキラと金色に光っていた。知人に見せると「外敵から身を守るため光るのかなあ」とつぶやいた。
 いつ羽化するのか、毎日折あるごとに観察。外出しても気になった。20日ばかりして羽のところが少し変色したので、羽化が近いと思った。こんな時に用ができて今朝、外出する時「夕方まで待ってね」と声をかけて出た。帰宅して急いでさなぎを見た。あー、運がなかった。背の割れた殻が風に揺れていた。どんなチョウだったかなあ。
   出水市 年神貞子(72)2008/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載

天敵

2008-08-14 22:00:29 | はがき随筆
 突然、上唇が強烈な痛みに襲われた。庭で草を取っていてハチの巣に触れたらしく、彼らの怒りを買ったのだ。
 アシナガバチは私がクマに見えるのか、上唇へのチューは2度目で、毒針を4年続けて刺した。鏡を見るとタラコのような唇にのらくろ軍曹に似たほお。おかしいがしびれて笑えない。
 抗体反応が心配で病院へ。医師の「血圧や呼吸に異常はなく、安心を」という救いの言葉に、胸の鼓動が治まる。
 翌日、庭木に三つのハチの巣を見つけた。大きなマスクをかけて、憎き天敵の城を殺虫剤で攻め落とした。
   出水市 清田文雄(69) 2008/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載 
   写真はチョコ☆さぶさん

孫、夏空に舞う

2008-08-13 15:12:22 | はがき随筆
 夏本番。あちこちで猛暑をふっしょくする威勢のよい祭りの掛け声が涼風に乗って心地よい。
 伝統ある、市の夏のイベント「ばか踊り」に2人の孫娘が通う保育園が初参加した。祭りの好きな私は、スタート地点から解散地点までの市街地を、可愛い踊り連にエールを送りながら密着。年長組の長女は脇目もふらず、きちんと、しっかり踊り、3歳半に満たない次女は、見物の人の波に戸惑いながらも、アスファルトの長いコースを踊りきった。
 そろいのハッピ姿がりんとして愛らしく、街灯に照らされて真っ赤な笑顔が輝いて見えた。
   鹿屋市 神田橋弘子(71) 2008/8/13 毎日新聞鹿児島版掲載