はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

記憶の中の色

2008-08-30 18:12:16 | はがき随筆
 スイカの赤い色は風化しかけた遠い日の記憶を呼び覚ます。五十余年前。夏休み。小学時代。左利きの祖父。早朝のスイカ畑。その日の出荷用を取り終わると祖父は朝露にぬれてよく冷えたやつをカマで割ってくれた。空腹の胃袋に染みわたったその赤い味が今も忘れられない。
 いつか、中学生の私を見て涙を流す祖母を見た。「ますますMに似てきた」と両手で顔を覆って泣く。息子のMは戦死していたのだ。肩に日露戦争での傷のある炉端の祖父。どこか母に似たMの軍服姿。壁にかかるセピア色の大きなその写真を、私は黙って見つめていた。
   出水市 中島征士(63) 毎日新聞鹿児島版掲載

11歳の意見

2008-08-30 18:04:45 | はがき随筆
 「母ちゃん、いつもとっても面白くないって顔で仕事してる人がいるよね。自分の仕事が好きでなければ、辞めるか転職するか寿退社するばいいのにね」
 11歳の娘がその人を見てから2回目の夜、私にそう言った。
 おそるべし、11歳。私も実はそう思っていたんだ。なんでこんなにブスッとした顔ができるのかな。とても不愉快。
 「だけど、いい勉強になったでしょ」
 「うん」
 世の中のいろんなことを見て知って、自分でしっかり判断できる人間に、娘にはなってほしい。
   鹿児島市 萩原裕子(56) 2008/8/29 毎日新聞鹿児島県版掲載