goo blog サービス終了のお知らせ 

はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

腫瘍に命名

2008-07-23 21:51:15 | はがき随筆
 視神経に癒着した腫瘍と長期間、共生している。立ち退く気配など全然ないので、名前でも付けて仲良くしていくことにした。小さい存在であってほしいとの願いを込めて、本名から「子」を削りワタリ・マヒロと命名。何か「いわさきちひろ」風で、本名より良い感じ。
 先日、デパートで買い物中、夫とはぐれた。特売日ですごい人出。携帯は通じない。呼び出しを頼みたいけれど実名では、とためらっていた矢先「ワタリマヒロさん、お連れの方が……」とアナウンスが。おお!
 よもや、こんな時こんな形で腫瘍の名前が役に立つとは。
   鹿児島市 馬渡浩子(60) 2008/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載

2期目の「伊藤色」は?

2008-07-23 17:20:50 | かごんま便り

 知事選のさなか、本棚の片隅にあった1冊の本が目に留まった。
 「知事が日本を変える」(文春新書、02年)。何とも勇ましいタイトルだが、当時、改革派の旗手と目された浅野史郎(宮城)▽北川正恭(三重)▽橋本大二郎(高知)──3知事の対談集だ。
 地方では最も巨大な組織体の一つである県庁。その中で、とかく国や一部議員などの顔色をうかがい、一般県民の視点が欠落しがちな行政運営。対談では、そうした旧態型県政と「格闘」する様子が現在進行形で語られている。具体的には情報公開、県職員の意識改革、なれ合いを廃した議会対策、などだ。
 発刊から6年、3氏ともに知事職を退いた今、読み返してもさほど違和感がないのは、裏返せば地方行政の改革はまだまだ道半ば、ということかもしれない。
◇  ◇  ◇
 伊藤祐一郎知事が再選され、間もなく2期目の任期(28日~12年7月27日)がスタートする。首長の本領発揮は2期目から、というのが通例だ。1期目はどうしても前任者の敷いたレール(正の”遺産”も負のそれも)に影響されるからだ。
 伊藤知事は「知事は行政官が8割、政治家が2割」との認識と側聞するが、失礼ながらこれは逆だろう。選挙民に選ばれる立場の首長は、まごうことなく政治家である。現代の知事には旧来にも増して県民への説明責任が強く求められる。隣県知事の例を引くまでもなく、トップセールスマンとしての役割も大きい。元タレントの派手なスタイルをまねる必要はさらさらないが、政治家としては適度のパフォーマンスも欠かせない。
 伊藤知事はいわゆる「改革派知事」とは違う、独自の自負をお持ちと聞く。財政難の中ではあるが、制度設計にとどまらない真の県政改革と、豊かな県作りに向け、どんな「伊藤色」が見られるのか、期待したい。
鹿児島支局長 平山千里2008/7/20 毎日新聞掲載

病名を忘れた日

2008-07-22 21:21:18 | はがき随筆
 9ヶ月ぶりに市の長寿学園大学へ。手術後、長時間の外出は初めてで不安だったが、知人の好意で他の方と同乗させてもらった。明るい会話が楽しい。
 何も出来なくても見聞するだけでもと割り切った。学習仲間の先輩たちの慰め、心のケア、体調へのアドバイスで、涙の後はつえを持つ手も軽くなった。帰りは配達される食事では不足しがちな買い物を手伝って玄関まで届けてもらい、幸せをかみしめた。洞不全症候群という病名も忘れ得た一日だった。
 両手が使え、一人で歩行し、介護者なしで自立できる日の夢をアジサイに語りかけた。
   薩摩川内市 上野昭子(79) 2008/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載

オカベ

2008-07-21 07:05:15 | はがき随筆
 2月初旬、股関節を痛めた。床にいると妻が心配するので、不自由な体にむち打ち病院に自転車で走る。薬をもらい飲むと痛みも和らぐ。ふと介護サービスに気づき役場福祉課に電話。今から伺うとの知らせ。問答が終わり後日、要支援1の認定。2月末より週1回のリハビリに通うと、愛きょうの良い看護士Mさんが豆腐のことを「オカベ」と言って笑わす。帰宅して妻に話すと、専門家に尋ねたという。専門家いわく、今は分からないが昔は県外でも使ったという。鹿児島弁には間違いないとのこと。皆をよく笑わす頓知なMさん。職員の美徳が随所に。
   姶良町 谷山潔(81) 2008/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載
画像はbsanchorさん

はがき随筆の縁

2008-07-20 07:56:46 | はがき随筆
 朝起きて、一番の楽しみは「はがき随筆」を読むこと。その投稿仲間に、私をよく励ましてくださる宮園さんがおられる。
 一度は整髪をしてもらいたくて、大口市の彼の店に向かった。理髪中に「私が理容師になった時、父がとても喜んでくれました。それに、14歳の時の鹿屋での空襲の怖さ。そんなことが忘れられない思い出です……」と語ってくださった。暖かい人柄と、60年も続く名技術。
 私は、見違える髪と、激動期の貴重なお話にお礼を言う。
 帰りながら、宮園さんご夫妻の健康と、いつまでも交流が続くことを願った。
   出水市 小村 忍(65) 2008/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載

アジサイの湖

2008-07-19 11:19:00 | はがき随筆
 梅雨の大隅湖は満ちて、湖畔4㌔に沿い4000本、豪華なアジサイの七色の鮮やかな花姿が眺められる。湖水に映えて多くの人々に見られて、豊かな一枚の絵の記憶を残すだろう。
 夏は高校ボートの喊声(かんせい)が湖面に走る。湖底は45年前に小学校、民家二百数戸の人々が離郷され、重いふるさとを心に残されている。
知人も毎年この時期に家族と訪れ、アジサイの陰に遠く望郷を重ねて「毎年、健康な限り来ますよ」。明るいりんとした言葉が響く。
 今日も湖水は静か。湖底の歴史をのみ、花影は水面に哀惜を秘めている。
   鹿屋市 小幡晋一郎(75) 2008/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はGERBERAさんより

プレゼント

2008-07-18 18:23:02 | はがき随筆
 父の日の、娘のプレゼント。今か今かと待ちこがれていたものの、プレゼントなし。妻や息子のプレゼントは早々に届く。
 2日遅れのプレゼント。思いもかけぬプレゼント。何と昭和14年、誕生日の東京日々新聞である。娘らしい、心を込めたプレゼント。妻や息子のプレゼント以上の喜び、言葉にも表現できぬ。自分の心に納めての大きな喜びである。一生の大宝でもある。
 娘の心の成長に感動する。社会に生きる中で、学ぶものの大きさに驚く。一人前の娘に成長していることに、父親としての心は満足である。
   出水市 岩田昭治(68) 2008/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載

鹿屋へ

2008-07-17 13:44:00 | はがき随筆
 FMかのやの誘いを受けたのは冬。「暖かくなったらね」と引き延ばしていたが、6月の終わりにバイクを飛ばした。
 快適な垂水航路。目の前の桜島が雄々しい。バラ園近くのライダーハウスがもう一つの目的。道を間違えてかなりのロス。野菜いっぱいのランチを食べ、おみやげの餅までもらった。
 約束の時間にやっと間に合う。Nさん宅で収録。エッセーを朗読、そして彼女のインタビューと続いた。夜は仲間の歓待を受ける。
 翌朝は一路、川内へ。何度も引き返しては軌道修正。200㌔の小さな旅は終わった。
   薩摩川内市 馬場園征子(67) 2008/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載

ひそかな楽しみ

2008-07-16 17:50:21 | はがき随筆
 1歳4ヶ月。もうそろそろいい案配だ。私は孫娘を抱いて2階へ上がり、用意したアイスクリームのふたを開け、孫の口へスプーンで運んだ。一口なめてまなざしが変わった。見よ、バナナよりおいしいもののあることを悟ったこの顔を。私はすっかり満足して茶の間へ降りた。
 新聞を広げていたら、なんと孫は私に向かったスパスパ口を動かしているではないか。まずいと思った瞬間、娘に見つかり「お父さん、アヤに甘いものをやったね」ととがめられてしまった。
 娘よ、そう怒るでない。お前だって母さんに内証で私がこの味を教えてやったのだから。
   大口市 山室恒人(61) 2008/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載

もう50年

2008-07-15 06:21:07 | はがき随筆
 50歳を迎えた。オギャーと生まれて50年、育ててもらって50年。いつの間にこんなに年をとったのだろうと、ふと思う。
 子供のころはゆっくり時が流れていく感じだったが、働き出してからは月日の過ぎるのが本当に早い。アッという間だ。過ぎし良き日々を懐かしむのは年をとった証拠だろうか。いつまでも若く元気であればよいが、そうはいかない。老いはやがて誰にでも必ず訪れる。人間は一生過ぎて身の自慢というが、どんな老後が待っていることか。
 何はともあれ一日一日を自分なりに精いっぱい、明るく強くたくましく生きていきたい。
   出水市 山岡淳子(50) 2008/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

収穫

2008-07-14 17:07:39 | アカショウビンのつぶやき








 「これじゃ植えすぎだよ」と、いつも皆さんに注意される我が狭庭…今年もいろいろ楽しませてくれる。
毎日観察していたはずのニガウリは気づかぬうちに中指ほどの実をつけていた。
今日は初生りのミニトマトを一つもいで食べた、あまーい。
水蜜桃は葉っぱの陰ですくすく育ち、いちじくも今年は4つ実がついた。
ブルーベリーは毎日採らないと、ボロボロ落ちてしまう。イラガの幼虫が潜んでいることがあるので、完全装備で汗だくになりながら収穫する。ようやく陽もかげってきた、虫除け帽子、手袋に腕カバー、そしてパーカーで全身を覆って…さあ始めるぞ。

鹿児島人

2008-07-14 16:28:16 | はがき随筆
 3月から義母と暮らし始めた。得意料理は炊き込みご飯にお煮しめ、焼き魚、ひじき煮物、豆腐とワカメのおみそ汁。ハイカラな料理ではないが、とってもおいしいおふくろの味だ。
 生まれ育った長崎を捨てて「鹿児島の人」となった義母の心の内はどうなのだろうか? ビール好きの義母にプレミアムビールを飲ませてやりたいが、今は第3のビールで我慢してね。
 一緒にいると魂と魂がぶつかり合って、晴れの日ばかりじゃないよ。曇りや雨の日だってあり、時には嵐の日だってある。でも幸せになろうよ。世界で一番小さな、大切な家族だもの。
   鹿児島市 吉松幸夫(50) 2008/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

双子ちゃん

2008-07-12 13:03:29 | 女の気持ち/男の気持ち
 長男の第2子は、双子ちゃん姉妹です。
 顔はうり二つで服もおそろい、不思議と仕草までそっくりです。名前も「桃」「柚」だからややこしいことこの上ありません。最近は言葉も増えて、双子の漫才コンビのまねまでして、私たちから大うけをとっています。
 「今度は双子らしい」と息子に聞かされた3年前、自分も二卵性の双子だった私は妙な気持ちになりました。
 半世紀前はミルクも十分無い時代で、私も少なからず苦労しました。テレビの歌番組で「ザ・ピーナッツ」が活躍していたころも、私は負い目を感じていましたが、朝のドラマ「ふたりっ子」を見て吹っ切れました。外見の興味だけでなく、人格までしっから描いていたように思えたからです。
 最近、私は双子ちゃんウォッチングにはまっています。存在感があってサプライズの連続。「桃」が眠ると「柚」も眠る。体にかすり傷を作る場所まで同じ。離れてお絵かきしても中身は一緒。
 思えば、他の同級生より初孫が遅かった私は「孫の守なんて」とうそぶいていました。でも、今では「孫さまさま」の体です。
 双子ちゃんが、末は歌手か漫才コンビかと、途方もない夢を見ている爺がここにいます。
   鹿屋市 上村 泉(67) 2008/7/12 毎日新聞鹿児島版【男の気持ち】掲載
 

オニユリ通り

2008-07-12 07:32:46 | はがき随筆




 いま種子島で野の道を行くとあちこちでオニユリに出合う。市街地を離れて車でほんの5分も行ったところに、まるで「オニユリ通り」とでも名付けたくなるような道に出る。
 西之表市は坂が多い。その場所も坂を上り詰めたところにある。毎年オニユリの咲くのを楽しみにしているカミさん。この日も買い物を済ませた帰り道、雨がぱらついている中、車を降りてカメラを構えた。通りかかった車の中から運転していた女性が「きれいですね」と声をかけてきた。「見事でしょう」。カミさんは自分が育てたような顔をして言葉を返していた。
   西之表市 武田静瞭(71) 2008/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は武田さんより
タネガシマ発-ネタガマシ日記


あと1年

2008-07-12 07:25:50 | はがき随筆
 末の息子は就職して名古屋にいる。1年ぶりの帰省は昨年の2月だった。うれしくて、迎えの車の中でも私の顔はほころんでいた。「お母さん、僕末っ子だからかわいいでしょう」「あたり前じゃない。どうしたの」「車が欲しいから○百万、出してもらえないかなあ」
 年金暮らしの親にお金の無心とは! 車ごと3㍍位ぶっ飛んだ気がした。「大学までが親の努め。返済計画を書いてみて」
 名古屋から封書が届く。ボーナス併用の24回払いで2年がかり。甘えを捨てた大人の自覚が読み取れた。自立しなくちゃね。
 1年が過ぎ、支払いは順調。
   いちき串木野市 奥吉志代子(59) 2008/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載