愛用のペンシルが見あたらず、机の引き出しを捜す。奥に折り畳んだ紙風船を見つけた。
少年の頃、行商の薬売りから宮下に紙風船をもらったことを思い出す。弟とポーンと打ち合って遊んだ。遊び飽きたら、紙風船を手でたたく。パーンと鳴り破れた。弟もまねしてパーンとならす。間髪を入れず、母にもったいないと叱られた。
今、庭に出て紙風船を膨らませ、手のひらでポーンと宙に浮かす。赤、青、白、黄の色柄は薫風に揺れ下りてくる。手で受けてたたく。パーンと破った。もう一度母に叱られたくて。音は空に吸い込まれた。
出水市 宮路量温 2015/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載
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