はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

毎日はがき随筆大賞・受賞作品の紹介

2006-06-16 10:59:57 | グランプリ大会
 6月11日に開催された「第5回はがき随筆大賞表彰式」では、大賞の外に4編の作品が選ばれました。作品と受賞者の喜びの声を紹介します。

優秀賞1 桜の季節
 それは、10年ほど前から入退院を繰り返していた妻にとって最後となった入院前日のことだった。「なぜか今日は気分がいいので桜を見たい」と言うので市内の公園に連れていった。枝いっぱいに咲き誇り、今にもこぼれそうな桜を見つめているうち「きれいだね。ありがとう」 とつぶやいた。「金婚式までは頑張ろうね」と2人でいつも励まし合っていたのに。今年はちょうどその年に当たる。桜の季節。あの時の「ありがとう」は今も深く心に刻まれ忘れられない。4年前、最後に妻と眺めた桜。今年も桜の下にたたずめば、きっと涙があふれるにちがいない。
   福岡県飯塚市 安部田正幸(75)
 5年前になくなった妻と最後に見た桜の美しさは今でも忘れられません。毎年、その桜を見上げると涙がこみ上げてみます。6年ほど前から投稿を始め、今回は妻への気持ちをそのまま文字にしました。受賞には本当に驚いています。

優秀賞2 ひより雪
 朝から雪が降っている。太陽が顔を出しても、まだ、雪が降っている。「ひより雪みたい」と孫がポツリ。「日和雨というのがあるから、それもありだよね」と2人で笑った。満1歳の誕生日の数日後、急性脳炎ですべてを失いかけた孫が17歳となり、言葉が豊富になった。今も、自分の足で立つことも歩くことも出来ず、思い通りには動けない。音楽が好きで、土日は終日音の中に埋もれていて、ときに面白いことを言って私を笑わせる。雪が舞うその向こうに広がる青空を眺めながら孫を抱きしめていると「奇跡」の二文字が浮かんでくる。
   山口県周南市 国兼由美子(63)
 孫娘は脳に障害がありますが、明るくて、ユニークな言葉を発して家族の心を豊かにしてくれます。受賞は孫のおかげ。美味しい物を買ってあげるつもりです。今後も感性のアンテナを広げ、厳張って随筆を書こうと思っています。

日本郵政公社九州支局長賞 望郷
 雑木林に65歳の翳(かげ)を伸ばし伸ばし歩いている。3日前の同じ道とは思えないくらい穏やかな日和だ。激しい北風に竹林がしなり、跳ね返していた光景はどこにもない。どれだけの歳月が流れただろうか。目を覚ましたせせらぎの水声がのどかだ。耳を澄ませば山から鶯の谷渡り。小学校からはピアノに合わせて子らの清き声。枯れ野には農夫が藁を敷き詰めている。稜線も明るい。まさに水温む春だ。でもどじょうっ子はどこえ消えた。幼馴染みはどこへ行った。雲はこんな遊子を故郷遠賀川へかり立てる。まだ旅は終わらない。
 ふるさとへ帰りますかと春の雪
   熊本県荒尾市 橋口朋英(66)

 福岡県水巻町で生まれ育ち、炭坑閉山で親友らとちりぢりになりました。自然が失われつつある故郷への思いを随筆に込めました。地元の毎日ペンクラブの仲間と切磋琢磨しています。私一人でなく、みんなへの賞だと思っています。

BKB毎日放送賞 馬鹿やねー
 11月に両目の白内障の手術をした。失敗したらとの不安もあったけど、無事に済みほっとした。今は小さな文字も読める若い目になってうれしい。友は「どう?」「うん、あなたの心の中まで見えてるよ」「ぎょっ、怖い」と、おどけて喜んでくれた。数日して、息子がズボンのポケットの穴を繕ってと言う。「いいけど、ちょっと針に糸通してよ」「何で、もう出来るじゃん」「そう言わんで手伝って」と頼みながらふっと気付いた。「通った。いっぺんで糸が……」「ハハー、10日も入院しちょってから、馬鹿やねーお母さんは」
   北九州市小倉南区 馬場美恵子(71)

 投稿し始めて約10年になりますが、賞は予想してなかったので本当にうれしい。昨年、目の手術を受けた後、息子の一言で、再び見えるようになった喜びに気づかされました。受賞は、繕い物を持って来た息子の優しさのおかげです。

 「家族」をテーマに募集した456編の作品の中から選ばれた、文学大賞5作品は次回のひとりごとで紹介します。

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