はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2021年 熊本県はがき随筆

2022-03-16 14:28:24 | はがき随筆
 年間賞に西嶋さん(熊本市)
 毎日新聞「はがき随筆」の2021年熊本年間賞に、熊本市の西嶋千恵さん(33)の「心が小さくなる」(6月19日)が選ばれた。熊本県内から投稿され21年に月間賞・佳作となった16点から、熊本大名誉教授の森正人さんが選考した。

叙法新鮮で自在な筆致

 新型コロナ感染症の流行はいまだ終息していません。ウイルスの変異によって、流行の波はくりかえし襲い、社会全体が翻弄され続けています。私たちの行動も大きな制約を受けており、はがき随筆にも、その余波が現れています。選ばれることの多い素材が、コロナ禍のもとでの不自由な生活のひとこまであったり、逆に思いのままに活動できた頃の回想であったり、あらわになった社会的課題に対する批評であったりです。
 月間賞4編、佳作12編のうちから、熊本県の年間賞には、6月度月間賞の西嶋千恵さんの「心が小さくなる」を選びました。
 近年は公園や空き地で遊ぶ子どもたちの姿をほとんど見かけなくなりましたが、この作品は、コロナ禍のなかでも思い切り遊んだ後、時間がきて友達と離れがたく思う我が子に、自分の子ども時代の経験を重ね合わせたもの。夕方になり、遊びをやめて帰らなければならない時に覚える寂しさは、誰もが経験したはずです。そうした子どもの心の動きを見つめる母親のまなざし、触発されてよみがえる子供時代の気持ち、この二つを行き来する叙法は新鮮です。この自在な筆致が、子どもの発した詩的な言葉に対する共鳴を効果的に表現しています。
 このほか、家族の介護に関する廣野香代子さんの「時間」(2月19日)、話題を呼んだ元総理の発言をめぐる増永陽さんの批評「#わきまえない」(3月16日)、我が子たちの昔の写真が呼び起こす思いを記した鍬本恵子さんの「なつかしいあの頃」(8月30日)も印象に残りました。
 森正人

長男の言葉に心動く
 「まさかと思いました。未熟な文章なのに、申し訳ないくらいです」。受賞への驚きと喜びを率直に語る。
 小学4年の長男が近所の公園で遊ぶのを見守った時のこと。友達と駄菓子屋さんに行ったり、公園で缶蹴りをして遊んだ、自分の小学時代の楽しい記憶がよみがえった。帰宅の時間となった長男が「なんだかお友達と離れると心がさびしく小さくなる」とつぶやいた言葉に「いいこと言うな」と心が動いた。
 通っている看護学校の国語の授業の一環で随筆に投稿した。掲載されると長男も「すごいじゃん」と喜んだ。「闘病中の人を少しでも明るく笑顔にできるような看護師になりたい」と自らの目標に向かって励んでいる。
 【下薗和仁】


冬風呂のぬくもり

2022-03-16 11:41:54 | はがき随筆
 「お父さん、先に入っていいよ」とありがたい声だ。仕事帰りの私に合わせて、娘が湯船を準備してくれていた。私は息子を誘って一番風呂に向かった。
 服を脱ぎふたを開けると、湯が全く入っていない。おや? 底の栓が開いたままだ。
 「おうい、空っぽだぞ」と声を出そうとした途端、息子が私の口元を押さえた。「ねえ、黙っとこうよ」。がっかりする姉を見たくない彼の提案だった。迷わず「うん」とうなずいた。
 裸ん坊のままこっそり湯を張り直した。待つ間、冬の空っぽ風呂は寒かったが、立ち上る湯気に家族のぬくもりが見えた。
 宮崎県都城市 平田智希(46) 2022.3.15 毎日新聞鹿児島版掲載コロナ


2021年 鹿児島県はがき随筆

2022-03-16 11:02:54 | はがき随筆
 毎日新聞「はがき随筆」の2021年鹿児島年間賞に、鹿児島県湧水町の近藤安則さん(68)の「親捨て」(11月21日掲載)が選ばれた。鹿児島県内からの投稿で21年に月間賞・佳作に選ばれた計16作品の中から、鹿児島大学名誉教授の石田忠彦さんが選考した。

「自責の念」淡々と描く
 例年の通り、月間賞と佳作になった作品の中から、近藤安則さんの「親捨て」を選びました。それは次のような理由によります。
 深沢七郎に「楢山節考」という小説があり、何回か映画化されたりもしましたので、ご存知の方もおいでだと思います。民間伝承の姥捨て伝説を素材にした短編小説で、息子が食いぶちを減らすために、母を山に捨てに行く話です。近藤さんの作品を読み、この小説を連想しました。もちろん状況は全く違っていますので、こういう連想は失礼かもしれませんが、近藤さんの「自責の念」には共通するものを感じました。
 特に、親を施設に捨てたのではないかという心理的こだわりから、ご自分を解放されようとされる苦しみに、非常に重いものを感じました。そのうえで、このような状況は私たちにもいつ襲ってくるかもしれないという、社会問題としても理解されました。
 このほかに、一木法明さんの、私たち独特の端っこ文化を指摘した「端っこ文化」▽中鶴裕子さんの、電話を外すに際しての夫婦の歴史を語った「固定電話」▽野崎正昭さんの「」閉所を恐れて徴兵されても歩兵がいいと考えているうちに戦争が終わったという「閉所恐怖症」▽久野茂樹さんの、自分の俳句がラジオで放送され眠れなくなったという「寝付けない夜」⏤⏤などもそれぞれに個性のある文章で、記憶に残る内容でした。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

「苦しみを文字に」
 受賞作「親捨て」は、昨年7月に亡くなった母との葛藤を記した。「母さんを頼むぞ」との父の言葉を忘れずに長年、同居を勧めたが結局、応じてくれないままだった。
 その母は晩年、高齢者施設で過ごした。最期を見送ったことでほっとした気持ちになると同時に、夜中に目が覚めると自分を責める母の顔が脳裏に浮かび眠れなくなった。介護福祉士の妻に悩みを打ち明けると、在宅介護は家族関係で苦労するケースも多いと慰めてくれた。「苦しみを文字にしたことで、少し楽になった」と明かす。
 東京での個人タクシー運転手などを経て2年前に帰郷。「生きたあかしに」とはがき随筆を始めた。「書いて言葉にすることで、頭の中にあるぼんやりとした思考がはっきりする」。誰もが抱える影の部分に向き合い、憂いを帯びた文体に個性が光る。
鹿児島支局長 石田宗久

私のちょっと違和感

2022-03-16 10:42:39 | はがき随筆
 13日付日曜くらぶ「松尾貴史のちょっと違和感」を面白おかしく読んだ。私も似たようなことが。ラーメン好きの夫に付き合い入った店でラーメン1杯と、ラーメンが苦手な私はサイドメニューを注文。「繰り返します。ラーメン一つと……あとラーメンは一つでよかったですか」と念を押される。「?」の私。出てきた。おや、ご丁寧にも別添えの器が! なるほど、私にもラーメンを食べてほしかったのかも。ラーメン店に来て店自慢の麺を食べない人はきっといないのね。周りはズルズルとおいしそうな音。私も負けじと焼き飯をせっせと口に運んだ。
 鹿児島県鹿屋市 日高美代子(75) 2022.3.16 毎日新聞鹿児島版掲載コロナ