はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

約束を果たす

2018-12-27 22:03:28 | はがき随筆
 次男が所属する垂水中央中ソフトテニス部は県総体で優勝を勝ち取り九州大会に出場した。
 九州・沖縄の16チームでのトーナメント戦を勝ち進んでいるとのライン情報にやきもき。那覇空港から沖縄市へとタクシーをとばし、会場に着いたときは既に準決勝で敗退、全国大会第3代表決定戦が始まるところ。1勝1敗となって息子たちペアの結果で決まる状況に。逃げ出したい気持ち。目はボールを追う。そしてデュースを制してゲームセット。やったー!
 顧問就任・入部時に先生と子どもたちが約束していた全国大会出場が実現した。
 鹿児島県垂水市 川畑千歳(60) 2018/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

同窓会

2018-12-27 21:54:40 | はがき随筆
 高校の同窓会に初めて出席した。卒業後初めて会う友人もいて、楽しいひと時を過ごした。
 アメリカから最近福岡に移り住んだH君が、その後よく連絡をくれる。ある日、共通の友人T君に会いたいと言ってきた。友人に問い合わせてもらったら、4年前に亡くなっていた。「とても残念です。素敵な人でした。どんな人生を歩んできたのか、ゆっくり聞いてみたかった」とH君から返事が来た。
 同級生だけでなく、会っておきたい人は他にもいる。行きたい所、やりたいこともたくさんあるのに、残された時間の中でできることは限られている。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(66) 2018012/6 毎日新聞鹿児島版掲載

安田さんと情報

2018-12-27 21:47:19 | はがき随筆
 安田純平さんの無事の帰国はうれしく、彼の精神力、信念に敬服し今後の報告に期待する。
 シリアに行くべきではなかった、自己責任で、外国からの情報で十分などの声があった。しかし、彼らは常にリスクを背負って真実の姿を自国民に伝えるべくやっていることを私たちはもっと重く受け止めるべきではないだろうか。
 若い頃、「神風が吹いて日本は必ず勝つと信じていた」とお年寄りから何度も聞いた。偽の情報を与えられていた戦前戦中。正しい判断は真の情報から。情報過多の今、その真偽と重要性にもっと敏感でありたい。
 熊本県八代市 今福和歌子(69) 2018/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

ルリタテハ

2018-12-27 21:35:22 | はがき随筆
 10月初旬、葉が食べられている。ホトトギスを食草とする幼虫、ルリタテハが今年もわが家に立ち寄り産卵してくれたらしい。葉の裏側にいた、いた。黒い体に歯ブラシの毛を植毛されたようなグロテスクな幼虫。5匹確認し、さなぎになる日を楽しみにしていた。ある日の事。あちこちさがしても姿がない。あれれ? さてはカマキリにやられたかな? 弱肉強食の世界。成虫はルリ色の宝石のような、すてきなチョウである。いずれにせよ一匹でも羽化し、わが家を訪れ「来年こそは成虫となり、飛び立つ姿を見届けてみたい」と願っている。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(65) 2018/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

炎の祭典

2018-12-27 21:26:45 | はがき随筆
 古墳まつり・炎の祭典を見に行った。古代衣装を身に付けたたいまつ行列が都万神社から西都原御陵に到着するとその火が点灯される。その明りの中で薄衣をまとった女人たちのしなやかな舞と、凛々しく勇壮な武人たちの火の舞が始まる。中央に仕立てられたやぐらに火が放たれると舞は一層の力強さを増し、手にしたたいまつの炎も踊り出す。都万神社に祭られるコノハナサクヤ姫と、ニニギノミコトの神話の現代神楽は、武人たちの見事な動きと、揺れる炎で見る人を魅了した。静かな神楽も良いが、夜空を照らす炎の神楽もまた格別だった。拍手。
 宮崎県西都市 河野満子(68) 2018/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

私の日々

2018-12-27 21:20:54 | はがき随筆
 自分でも驚くほど忘れ物がある。
 お隣さんのお誘いで小春日和の庭で楽しいおしゃべり。日差しを気にして自分の帽子を私に貸してくださる。優しい心遣いにお礼を言うのを忘れ、そのまま自分の頭に載せて帰ってきた。
 ある日、出会った人が丁寧にあいさつしてくださる。どうしよう、その方の名前が出てこない。ごめんなさい。こんな失敗の日々だが一つの楽しみがある。新聞小説で一番印象に残っている「マチネの終わりに」。単行本になり、映画化されるとある。是非実現してくれたら。
 熊本市中央区 川口紋子(91) 2018/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

アリシアに会いに

2018-12-27 21:12:04 | はがき随筆
 娘が「アリシアが来るよ」と。一瞬、まだ健在? そんな遠い日に読んだアリシア・ベイ=ローレル著「地球の上に生きる」がよみがえった。
 9月の末、霧島のお寺へ向かう。ライブまで時間があったので、会場の隅のベンチに座る。隣で熱心にペンを走らせている人、アリシアだった。長い髪を肩まで垂らして。一段落したところでサインをお願いした。見開きいっぱいのメッセージ。「40年もの間大事に持っていてくれてありがとう」と。ギターを幾つか替えて歌った。アリシアの自然な生き方は憧れ。今、色あせた本を時折めくっている。
 鹿児島県薩摩川内市 馬場園征子(77) 2018/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

ポチからタマに

2018-12-27 19:07:58 | はがき随筆
 私は「普段、徒歩を楽しもう」と世界へ発信しているが、今年は連日の猛暑で外出つを控えていた。「陽が落ちたらホームセンターへ散歩を兼ねて行くよ。ポチも一緒だよ」と妻。乗せられて「うん」つい「ワン」と返事して、私は犬にされた。
 特別に時間を割かないで、生活の必要に応じて楽しみながら歩くように勧めている。妻は私を屁理屈どおり歩かせるために用事を、わざわざ企んだのだ。
 暑さが残っていた。往復2㌔の道中を、スマホを手に徒歩を楽しんだ。自撮りした姿は父に似て猫背だ。散歩した「ワン」は「ニャーン!」だった。
 宮崎市 貞原信義(80) 2018/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

うまかね

2018-12-27 19:01:15 | はがき随筆
 息子が小学生のころは、二人で九州の山によく登った。佐賀県の天山に登ったときは、コンビニでカップラーメンを買いお昼の弁当にした。天山山頂は美しい草原で、点在するどうだんツツジが燃えているようにまっ赤だった。
 山頂に着くと、登山用のコンロでお湯を沸かし、眼下に広がる佐賀平野を望みながら、二人でカップラーメンをふーふーしながら食べた。息子が「お父さんうまかね」と話かけてきた。
 何でもない光景だが、ほっとさせてくれる思いでの1ページである。
 熊本市 岡田政雄(71) 2018/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載

秋を満喫

2018-12-27 18:54:56 | はがき随筆
 「秋の野の花を愛でる会」に出掛けた。句の会席も楽しめるとあって、わくわく気分。
 入口では豪華な野の花たちに迎えられ、一気にテンションも上がる。花器の中の秋の草花は別世界の雰囲気を醸し出し、吸い寄せられて見入った。さわやかな秋晴れ、滝の音に耳を傾けながら、句の会席を頂く。運ばれてくる器とお料理、まるで芸術品そのもの。
 口に運ぶのをためらうほど美しく、まさに「インスタ映え」の趣。目で楽しみ、秋の味覚は小食の胃袋も驚くほど満たしてくれた。食欲の秋だ。少し体重が増えるといいなあ。
 鹿児島市 竹之内美知子(84) 2018/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

人生の指針

2018-12-27 18:47:35 | はがき随筆
 「出版しました」と熊本在住の恩師から本が送られて来た。
 表紙の空色が心を引く。後進の指導に励みつつ東京、熊本でコンサートを開いた声楽家だ。現役最後の舞台は82歳とあり、驚いてしまった。高齢になると足腰が衰え、体を支える事がおぼつかなくなる。しかも会場の隅々まで肉声を届けるのは、並大抵ではない。どれ程の努力の積み重ねがあったのかと想像し、その精神力に胸を打たれた。
 そして今秋92歳で出版。人生100年時代といわれる今の世。80代90代をどう生きるかと自問し、師の生き方は、人生の貴重な指針だと、心に重く刻んだ。
 宮崎県延岡市 源島啓子(70) 2018/12/2 毎日新聞鹿児島版掲載

実習生

2018-12-27 18:41:43 | はがき随筆
 私が働いていたところへ2人の中国人女性が来ました。30代前半、子どもを親に預け、3年の期限で働きに来たとのこと。「お米が高いので家から送ってもらう。もっと残業があれはいいのに」とちょっと不満げ。仕事もテキパキこなし周囲にもすぐなじんでいました。
 安い賃金で働かされているといううわさでしたが、聞いてみると帰国した時にまとまった形でもらえるからとうれしそうでした。ご主人からの手紙を見せてもらいましたが、もちろん漢字だらけ。「体に気をつけてと書いてあるね」と言うと、「良くわかるね」とにっこり。
 熊本市中央区 山口妙子(83) 2018/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

キリシタン墓地

2018-12-27 18:29:50 | はがき随筆
 鹿児島市の福昌寺跡地の裏山に「キリシタン墓地」がある。狭い階段を登った先に十字が彫られたこけむした自然石と、明治38年に造られた祭壇型の合同墓碑が木陰に囲まれている。
 大浦天主堂の建設が、潜伏キリシタンの「発見」につながり、関連物が世界遺産に今年登録された。この信徒たちは各地に流刑。鹿児島へは明治3年、廃仏毀釈で廃寺になった福昌寺に。同地で53人が亡くなった。
 流刑にあった時、西郷隆盛は薩摩に帰郷している。「西郷どん」ブームと、潜伏キリシタンが話題になっている今、スポットを当ててほしい場所だ。
 鹿児島市 高橋誠(67) 2018/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

椿の実

2018-12-27 18:20:31 | はがき随筆
 その家の持ち主は数年前に故人となり今は空き家。道路沿いの敷地には椿の木があって11月に入ると決まって道に実がこぼれ落ち、見兼ねた隣家の方が掃除をされている。
 昨年の今ごろ、その実が欲しいと言ったら袋一つ持って来て下さった。油がとれないものかと試してみたが結局畑の土に戻した。今年そこに数本の芽を見つけた。将来ツバキ油がとれるかもと夫に言うと実のなる頃まで生きてはいないと笑う。調べると30年の歳月を要するらしい。この季節、道すがら実を拾うのは本能なのか、もの言わぬ椿の木の下で足が止まる。
 宮崎県都城市 蔀なおこ(56) 2018/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

江戸っ子Aさん

2018-12-27 18:13:45 | はがき随筆
 Aさんとの出会いは終戦の暗い時代。傘の修理をして回っていたAさんの休憩場所がいつの間にか私の家に。「どちらから」と尋ねると「僕は江戸っ子で親を捨て自分の好きなことばかりやってきたケチな野郎です」。歯切れのいい江戸弁が私を魅了しました。風の便りにAさんが老人ホームに行かれたと聞き、面会に行きました。Aさんは「女の来るところじゃござんせん」と言い、数ヵ月後にAさんが亡くなったと知らせがありました。「貯金は一人娘に託してください」として私の名前が書いてありました。最後まで粋な江戸っ子のAさんでした。
 熊本県八代市 相場和子(91) 2018/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載