はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

クッサレ、イオ

2018-12-25 23:24:18 | はがき随筆
 過疎の地にフィリピンから嫁に来て3年、工場に来てくれて4か月のMちゃん。はじめはあいさつ程度だったが、パワフルオバチャンのジェスチャーと、新規購入の和英辞典と、日本語を英語に変換する若い従業員のスマホで急成長。
 魚を扱う仕事がら、時には鮮度の悪い魚もある。だれがいったか「クッサレ、イオ」(くさった魚)、反応したのはパワフルオバチャンとMちゃん。生粋の鹿児島県人の義母が使っていたという。若い従業員は「何、それ?」と。方言がこうして少しずつ死語になっていくんだなと寂しくなってきた。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(72) 2018/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

圧迫骨折

2018-12-25 23:02:14 | はがき随筆
 今年は例年になく暑い夏。40度を超す地域がニュースになり、高齢者は特に気をつけるようにと注意情報が出ていました。それにもかかわずず自分は大丈夫と過信。お盆前、病院、買い物と出歩き、熱中症となり、その夜半、吐き気をもよおし、後悔先に立たず? 翌日はフラフラ、板の間で倒れ、したたかに尻餅をついて近くの医院で手当てしてもらいました。だんだん痛みが増し、専門病院に行ったら背中の圧迫骨折との診断。大変な事になったとビックリ。今までに経験したことのない痛み。自己責任ですが、快方に向かう日を待っているところです。
 鹿児島市 津田康子(87) 2018/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

無花果

2018-12-25 22:50:43 | はがき随筆
 また、昭和の家が消えた。この前の台風で、長年空き家だったお隣の家は、被害を受け解体され、更地になった。
 我が家は、お隣と同じころ居をかまえると、長い年月のうち、身内のような間になった。
 しかし、20年前に老夫婦は旅立たれた。
 思い出のひとつ、お婆ちゃんは、縫い物が上手だった。
 娘が生れた祝いに、仕立てた着物をくださった。物心がつくと、娘はそれを好んで着た。曲に合わせて踊ると、目を細めていた姿が浮かぶ。早くに母を亡くした私は、母のように思った……庭の無花果だけが残った。
 宮崎市 田原雅子(84) 2018/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

上手に生きる

2018-12-25 22:39:36 | はがき随筆
 急に秋らしくなり、月ごとのカレンダーも2枚を残すのみ。例年、毎月行事予定を記入するが、今は月2回のレクリエーションダンスと数件の用のみで、ほとんど真っ白。以前は日々のサークルや行事予定で埋められていたのに、心身共に衰えを受け止める昨今だ。それでも何とか早朝散歩と公園のトイレ掃除のボランティアは続けている。
 3県合同の「はがき随筆」は大きな楽しみの一つ。90代後半の先輩方の健筆には脱帽と共に恥ずかしながら続きたい意欲も湧くのだが、加齢には反抗しようもなく、今の幸に感謝し、日々努力するしかないのだろう。
 熊本市中央区 原田初枝(88) 2018/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

里の秋

2018-12-25 22:32:03 | はがき随筆
 空のキャンバスに雲が秋を描きはじめたので、風が喜び触れまわっている。
 まっ赤なガーベラとまっ赤な彼岸花が隣り合い、すっくと立ち上がった。
 まだまだ威張っている夏草の茂みで吾亦紅が遠慮がちにこちらを見ている。気づかずにごめんなさいとまとわりついている草をほどいてやる。
 ほっそり楚々とした立ち姿の優雅なこと、秋の風情をそっくりまとったあなたが好きだ。
 もくせいが香り、からすうりがオレンジ色の灯をともし、ひなびた里が華やぐ刻を、待っている。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(81) 2018/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載


波のように

2018-12-25 22:24:34 | はがき随筆
 年上の友人のお通夜で「あなたのことを妹のように可愛がってたよ」と伝え聞いた。可愛いなんて、もう何十年も言われたことない。涙がこぼれそうになった。
 忘れた頃、決まって夕食の後片付けが終わる時刻を見計らい電話をかけてきた。「お久しぶり! どうしてる?」と。
 出会ったのは40年前。心通わすつき合いが始まったのは老年を迎える頃から。今から面白くなりそうな予感がしてたのに。
 しばらく会わないなあ、今夜電話がかかるかも……と思ってしまう。寂しさが寄せる波のように、ひたひたと送れて遅れて来る。
 宮崎県日南市 矢野博子(68) 20158/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

アップルバイ

2018-12-25 22:16:00 | はがき随筆
 ツヤツヤした真っ赤なリンゴが、驚くほど安価で売られていた。これを買わない手はない、と即決した。持ち帰ってテーブルに置くと、店先で見た時よりもかなりの大玉だった。五つ並んだリンゴを前に、いくつかは生で、残りはアップルパイを作ろうと思い立った。子供たちが幼いころは頻繁に作っていたが、30年も昔のことで自信はない。手順を思い出しながらオープンに入れる過程までたどり着いた。待つこと20分、恐る恐る取り出してみるとサクサクと焼き上がったパイ生地の格子の間から黄色に変身したリンゴの果肉がみずみずしく光っていた。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(71) 2018/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

あんこ

2018-12-25 22:08:48 | はがき随筆
 義母はよく団子やぼた餅を作っていた。その真っ黒い餡は癖があり、馴染みのない味に小豆ならいいのにと思ったものだ。そら豆の一種で、この辺りではト豆と呼ぶらしい。
 13年前に義母が脳梗塞で倒れてからは、その餡に出会うことはなかった。だが、最近になって無性にあの味が懐かしくなり、知人に分けてもらって種を植えやっとあんこができた。
 ぼた餅にして義母の住む施設の運動会に行った。年数回の行事に親戚が集まり義母を囲んで手作りの弁当を広げる。すっかり老いて覇気のなくなった義母からは感想さえ聞けなかった。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(61) 2018/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

月間賞に田上さん

2018-12-25 21:20:30 | 受賞作品
 はがき随筆10月度。受賞者は次の皆さんでした。

【月間賞】18日「歎異抄とは」田上蒼生子=宮崎市 
【佳作】18日「秋の日」北窓和代=熊本県阿蘇市
▽21日「むかしむかし話」小向井一成=鹿児島県さつま町
▽11日「生きる力」逢坂鶴子=宮崎県延岡市
 
 田上さんの作品。「歎異抄をひらく」は新聞の書籍広告欄で時々目にする本ですが、「歎異抄」という書名が表す内容が難しそうで、つい敬遠したくなる本の一つです。田上さんは99歳にしてこの本を買われた。その心意気に驚きました。人生は今や100歳時代といわれていますが、日々体調を整えながら元気に歳を重ねていくことは大変なことです。その「歎異抄をひらく」の内容を自分の胸に落とし込み、分かりやすい文章にされた力には脱帽です。
 今月は田上さんを含めて90歳代の方5人の投稿がありました。うれしい限りです。
 北窓さんの「秋の日」。「風とクリが遊び空と地にまろび落ちる。ころっ、どかっ、ごろ。」の出だしが小気味いい。伝えたいことを的確な言葉で綴り、テンポよく進んでゆく秋物語り。読者も書き手の弾んだ文章に誘われて、クリの林にいるような愉しさを覚えます。
 小向井さんの作品。最近は各地に残る祭りや風習を復活させようという動きがあり、とてもいいことだと思います。小向井さんもそのお一人。ふるさとの民話を紙芝居にして伝えておられる。作者の温かい人柄の伝わるほっこりとした作品です。
 逢坂さんの「生きる力」。ご主人亡き後、息子さんを育て今もなお、お一人で雑貨店を営む91歳の作者。随筆と雑貨店が生きる力になっていると。月々に寄せられる随筆には教えられることばかりです。
 鍬本恵子さんの「生れ変われるなら」、中村薫さんの「スキップ」、鳥取部京子さん「金は神の恵み」も印象に残りました。
 これから寒くなります。皆さま、お元気でお過ごしください。
みやざきエッセイストクラブ会員
戸田淳子

収穫の秋

2018-12-25 21:18:33 | はがき随筆
 私が卒業した小学校には、子ども3人がかりでも一周できないイチョウの大木があった。
 秋には黄色の葉っぱと同時に独特の臭みのある銀杏も落とした。素手でそれを拾い小川でもみ洗いして家に持ち帰るが、やがて手のひらは赤黒く変色し皮がむける。いわゆる銀杏負けだ。収穫物は恐らく母が茶碗蒸しなどに利用したのだろう。
 今もこの時期には近くの神社の境内にゴム手袋を用意して拾いに出かける。私の楽しみは、銀杏を封筒に入れレンジでチンして、これからおいしくなる燗酒のつまみにすることだ。季節を感じる最高のひとときになる。
 熊本市北区 西洋史(69) 2018/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ガーデニング

2018-12-25 20:59:40 | はがき随筆
 秋の今の時期、花鉢や花の苗が並ぶお店のぞきは楽しいものである。あれもいいこれもいいと迷いながら、なかなか決まらないのはいつものこと。去年まではプランターにあの色この色と欲張って植えていたが、今年はプランターごとに同色にまとめてみたら、すっきりとしてなかないい。こぼれ種の発芽も見越してそのプランターも用意する。わが家の小さなガーデニング。水やりや花がら摘みも楽しく、手をかけるほど応えてくれる花たちの成長ぶりなのである。このガーデニングが隣に住む嫁との花談義の種を提供してくれること請け合いである。
 鹿児島県霧島市 口町円子(78) 2018/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

大根たち

2018-12-25 20:51:23 | はがき随筆
 仕送りとアルバイト代は学費と生活費でほとんど消えてしまい、余分なお金などなかった学生の頃。だが3代にわたる呑兵衛の血は争えず、生活費を削ってでも酒代を捻出して飲んでいた。月に1度の楽しみは、千円札2枚握りしめて悪友たちと行った屋台。おでんの大根を肴に政治のこと、日本の将来のことなど、天下国家について熱く議論を交わしたものだ。
 あれから40年、天下国家を動かす奴は出なかったが、同窓会で再会した悪友たちは、それぞれ年輪を重ねていい顔になっていた。あの味がよく染みて真っ黒くなった大根のように。
  宮崎市 福島洋一(63) 2018/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

行ってきました

2018-12-25 20:33:19 | はがき随筆
 姪の結婚式招待状が届いた。4歳で父を亡くした彼女の晴れやかな姿をぜひ見たいと思い、東京行きを決めた。だが出発数日前、夫の突然の体調変化に、不安を抱えての旅行となった。
 東京は変わらず人が多く超スピードだった。特に駅はすごい。いつものペースでは跳ね飛ばされそうだ。ぶつからぬよう必死に歩いた。息切れはするしはぐれそうになるしオタオタビクビク。夫の体調も心配で緊張感いっぱい。やっとホテルに着いた。本当に疲れた。
 次の日、父の写真を胸に抱きバージンロードを歩く姪の姿を見た瞬間、疲れも吹き飛んだ。
 宮崎市 堀柾子(73) 2018/10/11 2018/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載