リンゴの花に憧れて、庭にリンゴの木を1本植えて10年あまりが過ぎた。
季節が巡ってその時期になると、毎年多くの花をつける。淡紅色の花が薫風に揺れる姿はいいものである。が、実がならないのはなぜだろう。
すぐ近くの柿の木は毎年しっかり実をつける。リンゴは今までほとんど実をつけなかった。なぜ?
ある時、自家結実率の低い果樹が多いことが分かった。柿の木は近所に必ずと言ってよいほどある。だから自然に交配して実をつけるのだ。だが、わがリンゴの木は独りぼっちだったのだ。
トウモロコシ作りの名人の話を思い出した。名人は自然の交配のことを考えて、自分のトウモロコシの最良の種子を近所の人たちに分け、みんなで良いトウモロコシを作ったという。自分だけでは良いものはできないと考えたのだ。
心を豊かにする良い話だと思ってかつて担任した中学生たちに機を見ては話した。
国のあり方も同様なものではないだろうか。独りぼっちの国は資源に恵まれない限り、実りは少ないのではないか。自国の利益だけを主張すると戦争につながらないか。過去の戦争がそれを示している。
トウモロコシ作りの名人のような考えの人は世界中にきっといる。歴史の流れもそうだ。名人の英知を結集して、心豊かな世界を作れないものだろうか。
鹿児島県出水市 中島征士 2012/12/31 毎日新聞男の気持ち欄掲載