はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

新幹線

2010-02-17 18:41:19 | かごんま便り
 鹿児島着任の07年7月、本欄の前身「鹿児島評論」を同じ題で書いた。部分開業とはいえ小倉駅から約3時間で鹿児島中央駅に降り立った驚きは忘れない。その新幹線が来春、本州とつながる。

 九州新幹線の全線開業の前祝い?のイベントが13、14日に開かれた。鹿児島中央駅前の広場は、県内各地や沿線各県の物産展でにぎわい、鉄道模型のジオラマや新大阪直通のニュー新幹線「さくら」のミニ列車などが人気を集めていた。
 国鉄が全国新幹線網構想を発表したのが67年。3年後に法制化され、国鉄の分割民営化をはさみ着工までには曲折があった。04年3月の部分開業で新幹線自体は当地では既におなじみだが、在来線に乗り継ぐ今と新幹線が直通することの違いは大きい。時短効果だけでも在来線特急時代に4時間近く要した博多まで、今の最短2時間12分から約1時間20分になる。

 鹿児島まで足を延ばそうか迷う人には朗報だろう。だが同じことは鹿児島から出たい人にも当てはまる。従来なら鹿児島の夜を楽しめたのに日帰りさせられる出張族だって出てくるはずだ。全線開業が恩恵ばかりもたらすとは思えない。

 期待される集客にしても課題は少なくない。地域流通経済研究所によると、九州新幹線の全線開業を知らない大阪人は07年、08年の調査でいずれも42%と横ばい。同研究所は「1年強の間の九州側からの情報発信は不足していた」と断じた。

 全線開業を地域の振興にどうつなげるか。12日にかごしま県民交流センターでシンポジウムが催された。都合で聴けなかったが、県の活用プランが紹介され、経済団体、観光業界などの代表が意見交換したという。

 この種の行事を平日の昼間に設定する当局のセンスが気になる。業界関係者を除く一般県民を巻き込む気はないらしい。地域ぐるみで知恵を絞るべき問題と思うが……。

鹿児島支局長 平山千里
2010/2/15 毎日新聞鹿児島版掲載

人生の不思議

2010-02-17 12:39:37 | 女の気持ち/男の気持ち
 退職を翌年に控えた8年前のこと、中学で理科を教えていた私は生徒たちと学校近くを流れる川内川とその支流の生き物調べをした。ついでに川内川の歌があるか調べると、ないことが分かった。
 同僚の音楽の先生に冗談めかして「ぼくが作詞するから、作曲してもらえない?」と持ちかけると、「いいですよ」とあっさり言われた。それで引っ込みがつかなくなった。
 作詞など全くの門外漢。慌てて「荒城の月」や「浜辺の歌」の歌詞を研究した。分かったのはみな七五調であることぐらい。それでも自分なりの言葉を連ね、源流から河口まで6番の歌詞にまとめた。それに音楽の先生が曲をつけ、学校の文化祭でお披露目してくれた。
 「はるかにのぞむ白髪岳歴史を語る旅立ちの・・・・」
 自作の詞が美しい旋律にのって耳に飛び込んできた。うれしくて涙が出た。国交省の川内川河川事務所が毎年川祭りで流してくれるようになるなど、その歌は大きな反響を呼んだ。
 すっかり歌作りの魅力にとりつかれてしまった私は翌年、卒業生贈るつもりで「鹿児島讃歌」という歌を作詞し、さらに退職後に書いた詞が三つの歌になってそれぞれの地域で歌い継がれている。
 音楽会に行ってもただ聴くだけだった人間が、五つの歌の生みの親になるとは。人生ってつくづく不思議なものである。
  鹿児島県出水市 小村 忍 66歳 2010/2/16の気持ち欄掲載