はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夜景

2010-02-02 18:55:32 | はがき随筆
 夕闇のせまるころ、縁側の戸締まりをしながら、夜景を楽しんでいる。
 斜め西向かいの丘の、木立ちの合間から、ぽつりぽつりと明かりがともり、夜のはじまりの光景である。
 一人生活のお住まいにも、見えかくれして点灯すると、ほっとする。
 夕げのころかな……。
 自分とも重ね合わせて、思いめぐらす毎夜である。明日の無事を祈りながら……。
 真下の道路では、雨のライトが道沿いを照らし、左手には列車が静けさをかき消して、宵闇の一こまである。
  阿久根市 川畑マスミ(79) 2010/2/2 毎日新聞鹿児島版掲載

今日は今日

2010-02-02 18:53:06 | はがき随筆
 「明日では遅すぎる」ということわざがある。この寒さで、玄関の中に仕舞い込むべきクンシランを入り□に置いて、大霜で駄目にした。叔父から頂いた上品な花で、大事に育てただけに実に口惜しい。早起きして早朝に処置すればよいとたかをくくっての醜態。面倒で止めたのではなく、玄関に掛けて頼りにする温度計の故障に疎かったせいである。取るに足らない気配り不足によるアクシデントを後悔。金銭や将来にかかわる重大な事で「やり直し」のきかないこともあろうが、その日のうちに処理すべきことを先延ばしする危険を諭されたと学びたい。
  薩摩川内市 下市良幸(80) 2010/2/1 毎日新聞鹿児島版掲載

女心

2010-02-02 18:33:36 | はがき随筆
 「昨年2月の骨折で左手の可動範囲が挟くなり、自分一人ではブラジャーが着けられない。あきらめかけたが、ブラを上下逆さにしてホックをかけ、くるりと回して着ける技を身につけました。──エプロンも……」
 この文は、随友・Mさんが、私の随筆「儀式」の中で、私が身障者の妻のブラ留めを手伝うことを知り、女性の宝・胸への思いをつづられたお便りを、Mさんの了解を得て要約し、紹介させていただいたものだ。
 女心を知ることは夫婦円満の源と考え、夫は、妻の、″深層心理″を読み取る務めがあるのかもしれない。
  出水市 清田文雄(70) 2010/1/31 毎日新聞鹿児島版掲載


振り向いて

2010-02-02 18:30:59 | はがき随筆
 ベビーカーを押した女性は待合室に腰掛けると、すぐに携帯を使い始める。
 赤ちゃんは、手足を動かしてご機嫌な様子だ。しばらくすると、眠たいのか泣き出す。
 女性は声もかけず、振り向きもせず、片手で車を前後に動かす。赤ちゃんは目を閉じたり開けたりして落ち着かない。愛のひと声が、ぬくもりの感触が欲しいのではと、私はしばらく見入っていた。
 女性は依然として携帯に夢中である。見ていてあきれ返り、腹立たしい気にもなった。
 お願い。赤ちゃんに振り向いて、と叫びたい思いだった。
  鹿児島市 竹之内美知子(75) 2010/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載

会長職の務め

2010-02-02 18:21:26 | はがき随筆
 はがき随筆会員になって、早や10年が過ぎようとしている。月間賞あり没あり修正ありとさまざまであった。今、会長職3年目である。名ばかりの職では終わりたくない。今年は何をやるべきか。やり遂げるには会員や投稿者の協力も必要だろう。
 作品は、読み応えのあるものばかりである。月間賞は逸したものの、随筆づくりに励む私にとって大いにプラスである。九州・山ロ一の鹿児島に近づいているのかもと思う。会員外の投稿者も一段と盛り上げている。
 今以上に、会員を1名でも増やしていくことも1番になろう。会長職の務めである。
  出水市 岩田昭治(70) 2010/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載

枯れ木に花を

2010-02-02 18:17:48 | はがき随筆
 「保養さん。ほら、梅の花が咲いているよ」
 「めずらしい。雪だねえ。花がきれいねえ。梅?」
 外を見てみんなで笑う。
 92歳。枯れ木と言わないで、と市政へ反発している訳ではなかろうが、母がベッドから降りて座り込むようになった。
 さく付きにした方がいいだろうと緊急に、雪日和にもかかわらず、担当者会議が持たれた。
 「何でも相談して下さい」
 「いつでも駆けつけますから」
 シルバー・ショップのIさんも頼もしい。
 母はたくさんの優しい人に囲まれて、花のようだ。
  阿久根市 別枝由井(67) 2010/1/28 毎日新聞鹿児島版掲載