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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いたちごっこ

2022-08-22 16:05:48 | はがき随筆
 目を閉じているので、眠っていると思い、テレビを消すと「見とっとぞ」と怒る。目をつぶって見とっとね。昼夜この繰り返しの我が家だ。育った環境の違いかなと思うが、歯がゆい。テレビがついていないと落ち着かない夫と、ついていると落ち着かない私。どう折り合いをつければいいのだろう。最近はドラマのあらすじを聞いても、はっきりしないことが多い。単に画像を見ているかに思える。ボケ防止には、見ないよりいいかと妥協の方向に努めている。これでいいのかな? 声を荒げないから、ま、いいか。今夜もつけたり消したりで寝不足だ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2022.8.19 毎日新聞鹿児島版掲載

スマホつながり

2022-08-22 15:39:49 | はがき随筆
 スマホ難民一歩手前の私が、最近、思い切ってガラケーから機種変更をした。スマホ用語を一から学び、右往左往しながら、やっと人並みに扱えるようになった。勇気を出してメカに強い友人や事務のバイト学生に遠慮せず操作を聞いた。それが功を奏し、店舗で待たされることなく、すぐに問題解決した。若者だからと敬遠せず、「教えて」と尋ねた甲斐があったというもの。孫世代の子らに教えを請うたが、意外と丁寧に教えてくれた。少しは若者との距離が縮まった感がある。
 市民講座にも参加し、レベルアップに余念のないこの頃。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(72) 2022.8.18 毎日新聞鹿児島版掲載


コロナ陽性

2022-08-22 15:30:52 | はがき随筆
 コロナ禍になって2年が過ぎていた。マスク着用やワクチン接種の効果について疑問を持っていた。
 まさか、自分が感染することは、全く想定外だった。
 のどが痛くて近くの内科を受診したが、自分では、寝冷えだと思っていた。受け付けで、風の症状があるといった途端、ドアの外に出された。そのとき初めてコロナ感染を疑われているのだと気づいた。
 体力が一気に奪われ、少し動くと横にならずにはいられない。コロナはただの風邪。そんなふうに、今は言えない。回復には結構、時間がかかる。
 宮崎県延岡市 渡辺比呂美(65) 2022.8.17 毎日新聞鹿児島版掲載

立秋の風

2022-08-22 15:09:28 | はがき随筆
 私は俳句も短歌もやらないが、高校で学んだ中には好きなものがある。その一つが藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」という、立秋の日に詠んだ歌である。暑さの中にふっと秋の気配を風に感じた歌である。夏休みの立秋にこの歌と同じ感覚を感じ感動し、それ以来立秋の風を楽しみにしてきた。
 しかし例年にない今年の猛暑。立秋の風はないなとおもいつつ、朝10時過ぎ屋根つき物干し台に出ると、何と昨日まで感じなかったひんやりした風がスーッとと。あったあった、立秋の風が今年もあったと嬉しくなった。
 熊本県八代市 今福和歌子(72) 2022.8.16 毎日新聞鹿児島版掲載

思い出に耽る

2022-08-22 15:02:20 | はがき随筆
 午前4時、窓ガラスに雨粒が吹きつけている。東シナ海を台風が北上中である。好天なら散歩に出る準備をしている時刻だが、一人机に向かい、雨音を聞き物思いに耽るのも楽しい。
 番傘、高下駄の昔まで思いが戻るのも生きてきた証だろう。今のように整備された道ではない。重い番傘を差して歩く姿や、小学校までの沿道の景色が浮かんでくる。車に泥水をはねられたのはずっと後で、荷馬車が目に浮かぶ。
 時の流れがゆっくりゆっくり動いていた。そんな貧しい時を思うのはなぜ。貧しさも過ぎるといい思い出かもしれない。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(82) 2022.8.15 毎日新聞鹿児島版掲載

古い手紙

2022-08-14 11:15:46 | はがき随筆
 古い手紙がある。少し色あせた和紙の巻紙にきれいな筆文字で書かれたその手紙は、私が結婚するときにいただいた。もう30年以上も前のものなのに捨てられずに持っている。
 すれ違ってもおかしくないご縁だった。それがずっと続いて、いつも親身になって見守ってくださった。最近、その方の生前の話を聞く機会があり、改めて手紙に目を通した。
 まるで父からのような愛情あふれるその手紙には、家庭生活における女性の義務は病気をしないこととある。いつまでも幸せを祈っていると……。
 感謝の言葉しか出てこない。
 宮崎市 高木真弓(68) 2022.8.14 毎日新聞鹿児島版掲載

2022-08-14 11:08:13 | はがき随筆
 毎日歩いている健軍川沿いの遊歩道。近所の奥さまが川沿いにいろいろの種類の花を植えておられる。先日、立ち止まりよく見ると、茂った花の中に小さなホオズキ、鳳仙花が咲いている。なつかしく、しばし足を止め、子供の頃に思いをはせた。
 ホオズキは中の種を出し、舌の上にのせ〝グワグワ〟と鳴らした。夜に鳴らすと「蛇が来るからやめなさい」とたしなめられた。鳳仙花は姉に手伝ってもらい、花をつぶして爪の上にのせ、草の葉で巻き一晩明かし、朝ピンクに染まった爪を見て、大人になった気がした。昔から爪を染める女心は変わらない。
 熊本市東区 川嶋孝子(83) 2022.8.13 毎日新聞鹿児島版掲載


日曜日の一杯

2022-08-13 21:16:31 | はがき随筆
 日曜日、ウイスキーを飲む。注ぐのは、愛用のグラスの下方にある飾り線まで。入れた氷が解けてグラスいっばいに満ちてから飲み始める。つまみは買い置きから気分で選ぶ。家での飲みは週1回、この1杯だけだ。
 最近は、飲みながらテレビの「ポツンと一軒家」を見る。自然への思いやり、伝統を守りながら環境を生かした工夫のある暮らしに毎回驚く。喝采する。これが次の1週間への区切りになっている。
 このウイスキーの氷割りをいつから始めたのだろう。新型コロナウイルス禍で外出を自粛する何年も前からだと分かるが、きっかけは覚えていない。
 日曜日が12回来ると、ボトルは空になる。グラスの飾り線が軽量の役目を果たしている。1時間かけて飲むのにちょうどいい量でもある。
 もともとウイスキーは飲まなかった。手を出したのは宴席での知恵だった。仕事絡みの飲食が多く、酒を注がれる時に「水割りですので」とグラスを持ち上げれば、それ以上は勧められずに済んだ。それは二日酔い防止にもなった。そのため家で夕食を取ることは少なかった。
 妻は一人で夕食を取った。私の体を気遣い、酒量を聞いてきたが、愚痴は言わなかった。私は酒量を心して飲んだ。
 今は毎日、妻と一緒に夕食を取る。だが、若い時からの晩酌なしは続く。日本酒は新聞投稿が掲載された日に杯1杯だけたしなむ。妻は、ポイントが10倍の日に欠かさず、ウイスキーのボトルを買って来てくれる。
山口県岩国市 片山清勝(81) ひといき欄掲載

しとしと雨の朝

2022-08-13 21:08:53 | はがき随筆
 傘をさして3人横に並ぶと道幅いっばいになる裏通り。黄色いカバーのランドセルで登校中の男児は、静音の乗用車が後ろから近づいても気づかない。歩みに合わせて車はゆっくりついていく。
 気づいた男児は、道幅によけて車を通させながら、車に向け、ぺこっと頭を下げた。その仕草から「気づかずにすみません」、そんな素直な気持ちを感じた。車を運転する人からも、子どもへの優しい心遣いと運転マナーの良さなどが感じられた。
 誰に教えられたんだろうと思いながら男児を見送った。しとしと雨のうっとうしさを忘れていた。
 岩国市 片山清勝(81) 2022.7.9 山口県版はがき随筆掲載

四季の遊び・夏

2022-08-12 10:15:36 | はがき随筆
 夏は川でミッジャビイ(水浴び)。僕たちはこば淵へ毎日泳ぎに行った。水浴びの前に草結びといういたずら遊びも。川へ通じる田の畔道は草ボーボー。その草を互いに結び合わせ、後ろから来る子が足をとられて転ぶ様子がスリル満点だった。
 水着などなかったので裸ん坊か赤へこ。いわゆる六尺ふんどしである。おおかた年上の連中が泳ぎ始めると、下の子たちはそれを見て飛び込んだり、潜ったりし、遊びの中でルールを学び覚え身につけていた。いじめなどなく、遊びだけは豊かだったこどもの頃。まだまだ懐かしい記憶がいっぱい。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(74) 2022.8.12 毎日新聞鹿児島版掲載

よみがえる人たち

2022-08-12 09:58:41 | はがき随筆
 家の前の街灯からガチャンガチャンと音がした。「これはもしや」と近づいて見上げると、ほらやっぱりカブトムシだ。
 ようやく足元に落ちてきたところで角をつまんで捕まえた。すると、夏の匂いが鼻をすうっと通り抜けた。
 カブトムシの匂いが好きだ。幼少期の記憶がはっきりとよみがえる。夏休みには母の実家に泊まりに行ったものだ。酔っぱらって語り合う大人たちは楽しくて優しかった。
 「じいちゃん、ばあちゃん、おばちゃん、今年の夏もまた会えたね」。目を閉じればすうっとよみがえる。夏の匂いに。
 宮崎県都城市 平田智希(46) 2022.8.11 毎日新聞鹿児島版掲載

カボチャ嫌い

2022-08-12 09:47:41 | はがき随筆
 朝の食膳に南瓜のお煮付けが載っている。ふうっとため息をつく。思い出は戦争中に蘇る。
 ある日、学校から帰ると南瓜が台所にゴロゴロ。「どうしたの」と聞くと「今月の配給」と母の返事。「お米は?」「ゼロ」。一目見ただけでうらなりと分る。15個くらいあったかな。これで1か月分かと思うと力が抜けてしまった。来る日も来る日も水っぽい南瓜のスイトン。つらかった。栄養失調になってちょっとした傷も化膿した。日の丸弁当が懐かしかった。今の南瓜は栄養満点、こっくりと甘くおいしいのはよくよく知っている。でもお箸が動かない。
 熊本市中央区 増永陽(92) 2022.8.10 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家のペット

2022-08-12 09:40:25 | はがき随筆
 動物大好き後期高齢者夫婦。今更、動物を飼うと私たちより長生きしそうで諦め気味。
 夜、ソファーでゆったりテレビを見ているとテレビの先のガラスに何やら頭をチョコっと。出たり引っ込んだり、ライトに寄ってくる虫を素早く尻をふりふり超高速でパクリ。ヤモリの親子だ。毎晩8時頃から活動開始。どこから顔を出して来るか、私たちもパズル開始。頭の体操、視力強化、散歩もさせず、餌もやらず、楽しませてくれるペットに会話も弾み、こんな楽しみ方あるんだ。
 どうぞ、どうぞ末永くパズルを解かしてください。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2022.8.9 毎日新聞鹿児島版掲載


国語辞典

2022-08-12 09:32:24 | はがき随筆
 いつの頃からだろう。私が国語辞典を引かなくなったのは。それは老眼になったのが一番の要因だが、スマートフォンなどをピッピッと押す生活に慣れたからだと思う。
 春休みに遠くの小学4年生の孫娘が帰ってきて宿題をしていた。小学1年生の弟と、時々ふざけながら楽しそうに国語辞典を引いている。宿題のテーマが「言葉を知れば学ぶ力も強くなりたのしくなるよ」だった。
 その国語辞典が気にいった。カラー写真やまんがの説明で文字も大きく私にピッタリだ。
 孫たちが帰った後、すぐに書店で同じ物を求めた。
 宮崎県延岡市 片寄和子(73) 2022.8.7 毎日新聞鹿児島版掲載

パイナップルの味

2022-08-06 11:18:19 | はがき随筆
 忘れられない味がある。学生時代、夏休みに石垣島に行った。友達2人と自転車を借りて島内一周に出発。照りつける日差しに閉口しながらも、初めての石垣島を楽しんでいた。
 未舗装の道路脇に小さなパイナップルを見つけた。パイナップルを積んだ小型トラックとすれ違ったので、誤って落ちたのか。それにしては、何日かたっているようで傷み始めている。
 石で割って食べた。一口頬張って、顔を見合わせた。甘くておいしくて、何とも言えない味が口に広がる。命の味と思えた。
 日の紡ぐ パイナップルの味一つ
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(66) 2022.8.6 毎日新聞鹿児島版掲載